不動産会社やシェアハウスの管理会社の中には、「シニア・高齢者を対象としたシェアハウス」を検討しているところがあるかもしれません。
しかし、若者を対象にしたシェアハウスとの違いがわからないと、本格的に検討することも難しいですよね。
このコンテンツでは、「シニア・高齢者のシェアハウス」の可能性と課題について、実際の物件や事例も紹介しつつ解説しています。
筆者は、2007年からシェアハウスの運営・管理にたずさわっており、その経験を生かして管理者から見た考えをリアルにお伝えします。
シニア・高齢者シェアハウスの「可能性」について
不動産会社やシェアハウス管理会社の中には、あらたな物件を企画・運営する動きもあります。
その中でも「シニア・高齢者のシェアハウス」の可能性について見ていきましょう。
シニア・高齢者のシェアハウス3つの種類
「シニア・高齢者」が共同生活するタイプのシェアハウスは、大きく3つの種類に分けることができそうです。
- シニアと若者のシェアハウス
- 自律したシニアのシェアハウス
- 高齢者のシェアハウス
詳細は、下記のコンテンツを参照してください。
シニアと若者のシェアハウス
シニアや高齢者と若者が共同生活するシェアハウスは現在もあります。
シェアハウスの中には年齢制限が緩やかな物件もあるので、結果的にさまざまな年齢の入居者が集まっています。
たとえば、20代~50代が一緒に生活しているシェアハウスもあるのです。
夢追う若者と事情抱える高齢者が共存 日雇い労働者の街で新たな物語(毎日新聞)
シニア向けシェアハウス
元気なシニア同士で共同生活するシェアハウスは、現在も運営されている物件があるようです。
離婚などで独身のシニアも増えているので、シニア向けのシェアハウスが今後も増加する可能性はあると考えられます。
独身の人や子供のいない人にとっては、一人暮らしが寂しく感じる場合もあります。
シェアハウスで暮らすことで、人と触れ合いながら楽しい共同生活を送ることも可能になります。
また、仕事をしている人にとってはビジネス的な交流も生まれやすくなります。
高齢者向けシェアハウス
これから高齢者が増える時代ですので、元気な高齢者が共同生活するシェアハウスが増加する可能性はあるでしょう。
「介護の必要がない自立した高齢者同士」が協力して生活するようなシェアハウスが考えられます。
シェアハウスに近いものに「グループホーム」というものがあります。 介護スタッフによる医療ケアを受けることができる施設のひとつです。
グループホーム(group home)とは、病気や障害などで生活に困難を抱えた人達が、専門スタッフ等の援助を受けながら、小人数、一般の住宅で生活する社会的介護の形態のことである。
そこでは、地域社会に溶け込むように生活することが理想とされる。集団生活型介護という言い方もある。
介護保険や介護サービスが受けられる施設や物件は、特別な手続きや行政の許認可が必要になります。
このコンテンツでは、介護保険に関連する施設に関しては解説していません。
高齢者向けシェアハウスの「事例」
高齢者向けのシェアハウスは全国でも少しずつ増えているようです。
実際に運営されている高齢者向けシェアハウスの事例について紹介します。
高齢者向けシェアハウスの「事例」①
高齢者と同居するシェアハウス(多世代型)を実際に運営する事例がありましたので紹介します。
https://www.zenchin.com/news/9-9.php
約3年間空き家となっていた築54年の一戸建てを運営会社がオーナー
総工費は約350万円で、各居室は約5.5~約10畳、
※ 注意すべき点
- 築古の建物は地震に備えて耐震補強工事をしたかどうか(特に1981年以前の建物)
- 防災のための消防署のチェックを受けているか
- 若者と高齢者(要介護者も含む)が同居する際の契約書・ハウスルールの内容
- 高齢者の健康状態の把握や緊急時の体制がどうなっているか
【関連コンテンツ】
高齢者向けシェアハウスの「事例」②
大阪市住吉区内にあった築約60年の文化住宅を、
単身高齢者×外国人 女性を支え合うシェアハウス誕生へ:朝日新聞デジタル (asahi.com)
入居者は60歳以上の日本人と労働世代の外国人を想定し、企画・運営する事業者は「高齢化社会における多文化共生など、
耐震補強工事を行なって安全に改築をしており、空き家をシェアハウスとして再生する案件として注目です。
高齢女性向けの3戸、若い外国人向けの6戸の個室のほか、1階にはオープンスペースを設け、
入居者だけでなく近隣住民を含め、
高齢者と外国人のシェアハウスという珍しいスタイル。
しかも運営する事業者は、シェアハウスの管理は初めてとのこと。
物件の管理運営がうまくいくかどうかは未知数ですね。
高齢者向けシェアハウスの「事例」③
“仕事付き”高齢者専用シェアハウス 空き家を行政がマッチング(高齢者住宅新聞)
地域の空き家を有効活用しようと、所有者と利用者とのマッチングを行ってきた東京都江戸川区。
2021年3月、空き家を活用した「単身で自立の高齢女性専用シェアハウス」が開設されました。
住宅の確保が難しい単身高齢者を受け入れるほか、就労希望者には仕事探しのサポートを行うのが特徴とのこと。
入居時に無職でも部屋を借りられるが、仕事を探す意思があることが条件となっています。
高齢者向けシェアハウスの「事例」④
空き家活用に新しい選択肢 東京都・江戸川区西一之江に誕生した「シニア向けシェアハウス」とは?|不動産投資の健美家 (kenbiya.com)
2021年3月、東京都江戸川区に空き家を改修して、高齢者向けのシェアハウスとして運用する「仕事付き高齢者住宅」が開設されました。
いわゆるサービス付き高齢者向け住宅とは全く異なり、目指しているのは「人生100年時代、元気なシニアが仕事をしながら地域で最期まで暮らしていける家」。
シェアハウスにしたのは、若者向けや外国人向けのシェアハウスはあっても、シニア向けのものはほとんどないという理由から。
単身のシニアは増え続け、孤独死などの問題もあり、助け合いが必要なシニアにこそ「シェアハウス」が向いているという意図とのこと。
住宅確保要配慮者の住まいの問題と地域の空き家の問題を同時に解決できるのか注目されるところです。
高齢者向けシェアハウスの「事例」⑤
迫る最期のとき シェアハウス+訪問看護でその人が望む過ごし方を実現 (神戸新聞 kobe-np.co.jp)
既存の施設とは違う形で在宅ケアに取り組んでいる企業が大阪・高槻市にあります。
株式会社みらいコーポレーションは、「ナーシングホームみらいのいろ」という、制度の枠にとらわれず在宅ケアを提供できるシェアハウスを運営。
自宅での生活が困難になった人が入居できるシェアハウスとのこと。
入居することで自宅となり、そこへ訪問看護でケア介入するという形態です。(介護施設ではない)
2022年6月には、13室から30室へ増設移転とのことです。
高齢者向けシェアハウスの「事例」⑥
栃木県大田原市で“高齢者の孤立”という社会問題の解決に取り組むのは「一般社団法人えんがお」。
6軒の空き家を活用しており、メインは高齢者の孤立の予防と解消を進めているとのこと。
高齢者だけではなく、おじいちゃん・おばあちゃんが集まる施設の目の前にみんなでご飯を食べられる地域食堂があったり、その奥には若者のシェアハウスがあったり、シェアハウスの隣には、精神・知的障がいを抱えた人のグループホームがあったり。
近隣で子どもから高齢者まで、障がいがある方も含めたいろいろな人が関われるコミュニティづくりをおこなっているそうです。
“高齢者の孤立”を解決するために…「一般社団法人えんがお」に人が集まってくる理由とは? | マイナビニュース (mynavi.jp)
シニア・高齢者のシェアハウス「問題点」について
50代や60代などシニアのシェアハウスや、高齢者を対象としたシェアハウスの課題について見ていきましょう。
「シニアのシェアハウス」の課題(問題点)
50代や60代などの「元気なシニア」を対象としたシェアハウスは入居者の年齢層が高くなるので、一般のシェアハウスとは住人の生活リズムが異なることが考えられます。
たとえば、仕事をリタイアしている入居者だと、一日中ハウスで過ごす人もいるでしょう。
ハウスにいる時間が長い入居者がいると、ハウス内の汚れやマナーなどの細かいことが気になる人も出てきます。
率先して清掃をしたり整理整頓をしたりする人だと、運営側が助かる面もあります。
しかし、協力的で献身的な性格の人であればよいのですが、他の入居者に注意をしたり高圧的になったりする人もいるので注意が必要です。
シニアの入居者は、これまでの人生や仕事のキャリアも様々ですし、プライドを持っている人も少なくありません。
オーナーや管理会社は、入居者同士の人間関係を良好に保つように管理をすることが重要になります。
入居者のほうが管理運営側よりも年齢が上になることも多くなりますので、トラブルも含めた人間関係に対応する体制が必要になるでしょう。
- 入居者の生活リズムがバラバラになりやすい
- プライドの高い入居者がいるとトラブルになりやすい
- 運営側が入居者同士の人間関係を調整することが重要
「高齢者のシェアハウス」の課題(問題点)
高齢者のシェアハウス(グループホームとは異なるもの)の課題について見ていきましょう。
「介護や支援が必要のない元気な高齢者」がシェアハウスで共同生活することになります。
高齢者ですので、ケガや病気、入院などでシェアハウスでの生活ができなくなる可能性も増加します。
そのため、シェアハウスで生活することができなくなったときの対応や、退去に関する事項をあらかじめ契約書で決めておく必要があるでしょう。
たとえば、入院の期間によってはシェアハウスを退去する契約にしたり、退去する際の荷物の送り先を事前に決めておいたりする対応があげられます。
また、高齢者は経済的な事情などで簡単に転居ができないケースも出てきます。
家賃が払えない入居者がいるときの対応も考えておく必要があります。(例:緊急連絡先との協議や生活保護の申請など)
- 入居者の体調や変化を運営側も気にする体制が必要
- 入院などの際の対応を事前に決めておく必要がある
- 退去できないときの対応を運営側が検討しておく
(参考)
注目の「高齢者向けシェアハウス」、メリットの裏にあるお金・派閥・老老介護トラブル | 週刊女性PRIME (jprime.jp)
筆者の経験談など(シェアハウス運営)
筆者は10年以上にわたり、若者を対象としたシェアハウスの管理・運営をしてきました。
シェアハウスの入居者は、ほとんどが20代~30代の若者が中心です。
ですが、筆者の管理・運営していたシェアハウスでは厳格な「年齢制限」を設けていません。
そのため、40代以上の入居者も一定の割合で生活しており、中には60代の入居者もいます。
筆者の経験では、40代以上の入居者は他の若い入居者とトラブルになることがやや多いと感じています。
年齢的なギャップがあったり、お互いのプライドがあったりするのがトラブルの原因かもしれません。
また、若者は仕事や住まいを比較的自由に選ぶことができますが、シニアや高齢者は簡単ではありません。
シェアハウスは、そういった環境や状況が違った中での共同生活になります。
オーナーや管理会社は、多様な入居者に対応する体制が求められます。
まとめ(シニア・高齢者のシェアハウス)
- 今後は物件が増加する可能性が高い
- 運営側は入居者同士の人間関係に気を配る
- 高齢者には様々な対応策を事前に検討しておく
Ⓒシェアハウス経営の教科書
【 関連コンテンツ 】