サブリース事業の際に結ぶ「マスターリース契約書」は、オーナーが管理運営会社とシェアハウスの管理を委託するときに結ぶ契約です。
一般のアパートの「管理契約」とは異なりますので注意が必要です。
シェアハウスは、オーナーから管理運営会社が「建物を一括で賃借」し、実際の入居者に「転貸」することが多くなります。
このような入居者への転貸を前提とした契約を「マスターリース契約」と呼んでいます。
(※必ずしも家賃保証があるとはかぎりません。)
なぜシェアハウスにマスターリース契約が多いのかというと、それはシェアハウスの特性に関係があります。
建物を一括で賃貸した管理会社が入居者に「転貸」をすると、入居者に対する「貸主」は管理会社になります。
シェアハウスは1つの建物の中での共同生活であるため、入居者に対するきめ細かい管理や迅速な対応が必要になります。
それを実現するには、管理会社が入居者に対して「貸主」になるほうがやりやすいのです。
このコンテンツでは、入居者への転貸を前提とした建物の一括賃貸借の契約を「マスターリース契約」と表記しています。
マスターリース契約を結んだ管理会社が入居者に転貸することを「サブリース」と言います。
実際に「家賃保証」がある契約かどうかは考慮していません。(※注意: サブリース = 家賃保証 ではありません。)
2020年6月にはサブリース事業に関係する新たな法律が国会で成立し、12月15日から施行されています。(サブリース新法)
マスターリース契約について、国土交通省は「特定賃貸借標準契約」と呼んでいます。
最新の情報も交えながら、国土交通省が作成している「特定賃貸借標準契約書(マスターリース契約書)」の内容に沿って詳しくお伝えします。
東京で20棟・300室のシェアハウス管理・運営において10年超の経験を持ち、物件オーナー(所有者)に対する「マスターリース契約書の作成と締結」を実際に行なってきた筆者が、プロの視点から解説します。
マスターリース契約においてオーナーがチェックすべき重要な「5つのポイント」を見ていきましょう。
目次(もくじ)
サブリース新法・標準契約書を順守しているかどうか(ポイント1)
2020年12月15日から、サブリース事業に関連した新法(賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律)が施行されています。
業者とマスターリース契約を締結する際には、上記のいわゆる「サブリース新法」を理解しておく必要があります。
以下で詳しく見ていきましょう。
サブリース新法では「重要事項説明」が義務となっています
2020年12月から施行されているサブリース新法では、契約時に業者による「重要事項説明」が必要となります。
サブリース事業を検討しているオーナーは、業者が新法に基づいて適切に対応しているかどうかを見極めなければなりません。
マスターリース契約を行う事業者には、不動産の免許(宅地建物取引業)は必要ありません。
宅地建物取引業の免許がない業者と契約するケースもあるため、オーナー側も法律をよく理解しておくことが重要となります。
国土交通省の「特定賃貸借標準契約書(マスターリース契約)」に準じているか
オーナーが安心して不動産業者や管理会社とサブリース事業の契約(マスターリース契約)をするには、「国土交通省が作成している標準契約書」を使用することが重要です。
国土交通省は、サブリース事業の当事者間における紛争の未然防止を図るため、「特定賃貸借標準契約書(マスターリース契約書)」を作成しています。
必ず事前に契約書の内容を確認しておきましょう。
また、「重要事項説明書」のひな形や記載例も公開されています。
あなたが契約する予定のサブリース事業が、「国土交通省の特定賃貸借標準契約書」がベースとなっていて、記載内容の重要な部分が抜け落ちていなければ安心ができます。
2020年12月からは業者による「重要事項説明」が義務付けられています。
契約前に重要事項説明の内容をよく確認するようにしてください。
詳細は、下記のコンテンツで解説しています。
【関連コンテンツ】
アパート等のサブリース契約を検討されている方は契約後のトラブルにご注意ください
http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/caution_011/pdf/caution_011_181026_0002.pdf
平成30年3月27日:公表 平成30年10月26日更新(金融庁・消費者庁・国土交通省)
「賃料保証」があるかないか(ポイント2)
シェアハウスの管理運営会社は、いわゆるマスターリース契約をしてオーナーから建物を一括で賃借することが多くなっています。
しかし、 サブリース事業 = 家賃保証 ではないケースもあるので注意が必要です。
シェアハウスを管理運営会社に委託する際にオーナーが受け取る賃料には、2つのケースがあります。
- 家賃保証(空室の有無にかかわらず一定の賃料が支払われる。)
- 変動家賃(空室の家賃は保証されない。管理委託と称する場合もある。)
実際に国土交通省の作成している「特定賃貸借標準契約書(マスターリース契約書)」の賃料の項目を見てみましょう。
この標準契約書では、「家賃保証」を前提とした内容になっています。
そのため、賃料を金額○○円と表記しています。
一方、シェアハウスの「変動家賃」の場合は、入居者から徴収した家賃の〇〇%をオーナーへ家賃として支払う、という契約になります。
具体的なシェアハウス1棟の事例(変動家賃)を見てみましょう。
(5万円の部屋が6室のシェアハウスで、料率が 80%・20% のケース)
シェアハウス (5万円×6室) |
満室のとき | 空室が1のとき |
徴収賃料(月額) | 30万円 | 25万円 |
オーナーへ支払う賃料(80%) | 24万円 | 20万円 |
管理会社の収入(20%) | 6万円 | 5万円 |
注意
シェアハウスのマスターリース契約の際には、まずは「家賃保証か変動家賃か」を確認することが重要です。
また、変動家賃であっても建物をオーナーから「一括で賃借する契約」になっているかどうかを確認しましょう。
転貸についての記述がなく単に「管理委託」をする内容の契約の場合は、マスターリース契約ではありません。(物件の単なる「管理契約」となる)
その場合、入居者との関係は下記のような図式になります。
入居者から見たオーナー・管理会社の関係
貸主 | オーナー |
借主 | 入居者 |
仲介・管理 | 管理会社 |
この場合、入居者との契約を管理会社に頼むと宅地建物取引業の「仲介(媒介)」となるので注意が必要です。
入居者との契約時には、宅地建物取引士による「重要事項説明」が必要になります。管理会社は「宅地建物取引業の免許」が必要になります。
(貸主はオーナーであって、管理会社は「仲介」するにすぎません。)
しかし、このアパートやマンションと同じような仲介・管理体制は、シェアハウスにはなじまないのです。
その理由は、シェアハウスは通常の賃貸住宅と比較して「入居・退去が多い」という特徴があるためです。
オーナーが貸主となっている体制では、家賃の督促や入居者の解約などの重要な判断はオーナーが自ら行わなければなりません。賃貸業のかなりの経験と時間が必要になります。
シェアハウスの管理方法については、下記のコンテンツで詳しく解説しています。
賃料の「改定」の規定について(ポイント3)
多くのマスターリース契約では、「定期的に賃料を見直す」こととなっています。
国土交通省の特定賃貸借標準契約書(マスターリース契約書)を確認しながら見ていきましょう。
賃料の改定について確認する
マスターリース契約では「家賃保証」とうたわれていても、入居状況の悪化や近隣の家賃相場の下落により賃料が減額する可能性がありトラブルも増えています。
そのため、国土交通省が作成している「特定賃貸借標準契約書(マスターリース契約書)」では、賃料の改定時期等の明確化が記載されています。
標準契約書では、「頭書(4)賃料等」の項目内に賃料改定の記載があります。
この中には、「初回の賃料改定日」・「2回目以降の賃料改定日」を記載する項目もあります。
だだし、注意をしなければならない重要な点があります。
それは、この項目の下段に記載されている部分です。
・上記の家賃改定日における見直しにより、本契約第5条第3項に基づき家賃が減額又は増額の改定となる場合がある。
・本契約には、借地借家法第 32 条第1項(借賃増減請求権)が適用されるため、上記の家賃改定日以外の日であっても、乙から甲に支払う家賃が、上記記載の家賃額決定の要素とした事情等を総合的に考慮した上で、①土地又は建物に対する租税その他の負担の増減により不相当となったとき
②土地又は建物の価格の上昇又は低下その他の経済事情の変動により不相当となったとき
③近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、本契約の条件にかかわらず、乙は家賃を相当な家賃に減額することを請求することができる。
・ただし、空室の増加や乙の経営状況の悪化等が生じたとしても、上記①~③のいずれかの要件を充足しない限りは、同条に基づく減額請求はできない。
・また、借地借家法に基づく、乙からの減額請求について、甲は必ずその請求を受け入れなければならないわけでなく、乙との間で、変更前の家賃決定の要素とした事情を総合的に考慮した上で、協議(協議が整わないときは調停・裁判手続)により相当家賃額が決定される。甲:オーナー 乙:サブリース業者
つまり、頭書(4)に記載して「賃料改定日」について合意したとしても、「お互いの協議」の上であれば賃料改定日以外であっても賃料が改正される可能性があることになるのです。
なぜこのような規定になっているのかというと、マスターリース契約は「不動産の賃貸借契約」だからです。
この場合、賃貸人は物件オーナーであり、賃借人はサブリース業者になります。
建物の賃貸借においては、借地借家法で借り手の保護が非常に手厚くなっています。
建物の賃料が経済事情の変動などにより不相当となったときは、当事者は建物の賃料の増減を請求できるように定めているのです。
そのため、年月が経過したり空室が増えてきたりした場合は、借り手(サブリース業者)はオーナーに対して「賃料の減額」を請求してきます。
(参考)
借地借家法 第32条
賃料の「免責期間」を確認する
マスターリース契約では、「空室保証」とうたわれていても、入居者の募集時等に賃料支払いの「免責期間」が設けられている場合があります。
免責期間とは、「オーナーが管理会社へ物件を引き渡してから最初の賃料が支払われるまでの期間」のことです。
なぜ免責期間が設けられているかというと、「家賃保証」の場合には管理会社は空室でもオーナーに一定の家賃を支払わなければならないからです。
物件の引き渡し直後は入居者がいないため、賃料支払日までの免責期間を設定しているのです。
そのため、国土交通省の標準契約書では「賃料支払義務発生日」を記入する項目があります。(頭書(5)・第6条)
(賃料支払義務発生日)
第6条 乙は、頭書(5)に記載する賃料支払義務発生日から賃料を甲に支払わなければならない。
甲:オーナー 乙:サブリース会社
また、家賃保証がなく「変動家賃」(いわゆる管理委託契約)の場合は、「料率%の改定」の規定があるかどうかを確認しましょう。
料率%は、入居者から徴収した家賃に対して掛けられ、オーナーに支払う家賃を計算する元となります。
変動家賃の契約の場合、この「料率%」を改定することができる契約内容になっているかどうかを確認しましょう。
その際は、改定日や何年ごとに改定するか、「頭書・条文・特約」をよくチェックします。
「解約」の規定について(ポイント4)
マスターリース契約書によっては、「解約」の規定がなかったりあいまいだったりする場合があります。
解約についてはっきりとした記載がない場合は、管理会社からいつでも解約することができることになりかねません。
なぜそのようなことが可能かというと、マスターリース契約では「借主」はサブリース業者(管理会社)であり、借地借家法が適用されると「借主に有利に解釈されてしまう」ことがあるからです。
一般的に借主は弱い立場とされており、解約するにあたって「正当事由」などは求められません。
しかし、これでは逆にオーナーが「いつ解約されるかわからない」という弱い立場となってしまいます。
そのため国土交通省の標準契約書では、「管理会社が解約をすることができない期間」を記載する項目を設けています。( 頭書(7) )
そうすることで、「管理会社の都合で解約をすることができない期間」を設定することが可能になります。
また、標準契約書の「第18条」にも解約の申し入れに対する記載があります。
管理会社は「6か月前」に解約の申し入れを行うこととしています。
(期間内の解約)
第18条 乙は、甲に対して少なくとも6月前に解約の申入れを行うことにより、本契約を解約することができる。ただし、本契約の契約期間の始期から起算して頭書(7)に記載する期間が経過するまでは解約することができない。
甲:オーナー 乙:サブリース会社
実際には、契約時にオーナーと管理会社で「解約できない期間」を協議して決めることになります。
シェアハウスの「管理・修繕の分担」について(ポイント5)
シェアハウス運営における物件の「管理・修繕」についても確認しましょう。
オーナーまたは管理会社の「分担」について契約書で明確化します。
- 第10条 頭書(6)
- 第11条 頭書(7)
建物維持管理の費用については、第10条にて借主(管理運営会社)の負担する項目を記載して明確にしています。
また、頭書(6)に記載する内容の建物維持管理は、借主(管理運営会社)の負担で行うこととしています。
(乙が行う維持保全の実施方法)
第 10 条 乙は、頭書(6)に記載する維持保全を行わなければならない。甲:オーナー 乙:管理会社
建物の修繕の内容については、第11条と頭書(7)にて明確にしています。
管理運営会社(借主)が行う修繕
- 頭書(7)に記載した項目
- 入居者に貸すために必要とするもの
- 管理運営会社や入居者に責任があることで必要となったもの
(維持保全に要する費用の分担)
第 11 条本物件の点検・清掃等に係る費用は、頭書(7)に記載するとおり、甲又は乙が負担するものとする。
2 甲は、乙が本物件を使用するために必要な修繕を行わなければならない。ただし、頭書(6)で乙が実施するとされている修繕と、乙の責めに帰すべき事由(転借人の責めに帰すべき事由を含む。)によって必要となった修繕はその限りではない。
3 甲が、本物件につき乙が使用するために必要な修繕を行った場合、その修繕に要する費用は、次に掲げる費用を除き、甲が負担する。
一 頭書(7)に掲げる修繕等で乙が費用を負担するとしているもの
二 乙の責めに帰すべき事由(転借人の責めに帰すべき事由を含む。)によって必要となった修繕4 前項の規定に基づき甲が修繕を行う場合は、甲は、あらかじめ乙を通じて、その旨を転借人に通知しなければならない。この場合において、甲は、転借人が拒否する正当な理由がある場合をのぞき、当該修繕を行うことができるものとする。
5 乙は、修繕が必要な箇所を発見した場合には、その旨を速やかに甲に通知し、修繕の必要性を協議するものとする。その通知が遅れて甲に損害が生じたときは、乙はこれを賠償する。
6 前項の規定による通知が行われた場合において、修繕の必要が認められ、甲が修繕しなければならないにもかかわらず、甲が正当な理由無く修繕を実施しないときは、乙は自ら修繕することができる。この場合の修繕に要する費用の負担は、第3項に準ずるものとする。
7 乙が頭書(6)に定められている修繕を行うに際しては、その内容及び方法についてあらかじめ甲と協議して行うものとし、その費用は、頭書(7)に記載するとおり、甲又は乙が負担するものとする。
甲:オーナー 乙:サブリース会社(管理会社)
このような建物の維持管理の内容・費用分担や建物修繕の内容について、契約書に記載がない場合は、国土交通省の標準契約書を参考にして明確化します。
そうすることで、契約後の管理や修繕についてのトラブルを防ぐことが可能になります。
契約を締結するサブリース業者(管理運営会社)と協議して、貸主と借主がお互いに納得のできる契約書を作成しましょう。
PS(追伸)
「サブリース契約」という言葉には注意が必要です。
正確に言うと、サブリース契約とは「サブリース業者と入居者との契約」を指します。
しかし不動産会社やサブリース業者の中には、「マスターリース契約」の意味で「サブリース契約」という言葉を使用することがあるので注意が必要です。
お互いが正確な用語を使用しないと、後に誤解が生じかねません。
書類や会話の中で言葉の意味やニュアンスに違和感を覚えた場合には、その言葉が何を指してどのような意味なのかを確認するようにしてください。
上記の図のように国土交通省は、マスターリース契約、サブリース契約などの文言を正確に使い分けています。
サブリース新法の活用する際に混乱しないように、正確な言葉と意味を理解しておきましょう。
※サブリース業者に対する規制・内容については、下記のサイトの解説を参考にしてください。
まとめ(サブリース 5つの注意点)
オーナーがシェアハウスの管理会社とむすぶ契約は、「建物を一括で借り上げる契約」で「入居者に転貸できる契約」となっている点に注意しましょう。
いわゆる「マスターリース契約」となり、入居者にとっての「貸主」は管理会社となります。
マスターリース契約とはいっても、必ずしもオーナーの賃料を保証する契約になっているとは限りません。
解約の規定なども含め、よく確認をしてから契約することが重要です。
- サブリース新法・標準契約書をよく理解する
- 「賃料保証」があるかないか(固定か変動か)
- 賃料の「改定」の規定がどうなっているか
- 解約の規定がどうなっているか
- 物件の管理・修繕の分担が明記されているか
アパート等のサブリース契約を検討されている方は契約後のトラブルにご注意ください
http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/caution_011/pdf/caution_011_181026_0002.pdf
平成30年3月27日:公表 平成30年10月26日更新(金融庁・消費者庁・国土交通省)
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