サブリース新法によってマスターリース契約前の「重要事項説明」と書面の交付が義務付けられましたが、不動産オーナーや投資家がその内容を正確に理解するのは大変ですよね。
実は、国土交通省のガイドラインによって、14 の項目別にポイントが示されています。
オーナーとサブリース業者とのトラブルを防止するために、項目ごとに解説がなされているのです。
筆者は、マスターリース契約書の作成に10年以上たずさわっています。
オーナー側が注意しなければならない点についても熟知しているため、その経験を生かしてポイントをまとめています。
このコンテンツでは、マスターリース契約前の「重要事項説明書」の記載事項について、オーナーがチェックするべきポイントを解説しています。
サブリース事業をおこなう際は、そのリスクをチェックしておくことが重要です。
このコンテンツを読むことで、不動産オーナーは重要事項説明書の内容とそのリスクを理解してサブリース事業に臨むことができます。
マスターリース契約時や契約後のサブリース事業者とのトラブルを防止することにつながります。
目次(もくじ)
- 1 重要事項説明書(サブリース新法)を読む前の注意点
- 2 重要事項説明書 14の記載・説明事項(サブリース新法)
- 2.1 (1)マスターリース契約を締結するサブリース業者の商号、名称又は氏名及び住所
- 2.2 (2)マスターリース契約の対象となる賃貸住宅
- 2.3 (3)契約期間に関する事項
- 2.4 (4)マスターリース契約の相手方に支払う家賃の額、支払期日、支払方法等の条件並びにその変更に関する事項
- 2.5 (5)サブリース業者が行う賃貸住宅の維持保全の実施方法
- 2.6 (6)サブリース業者が行う賃貸住宅の維持保全に要する費用の分担に関する事項
- 2.7 (7)マスターリース契約の相手方に対する維持保全の実施状況の報告に関する事項
- 2.8 (8)損害賠償額の予定又は違約金に関する事項
- 2.9 (9)責任及び免責に関する事項
- 2.10 (10)転借人の資格その他の転貸の条件に関する事項
- 2.11 (11)転借人に対する⑤の内容の周知に関する事項
- 2.12 (12)マスターリース契約の更新及び解除に関する事項
- 2.13 (13)マスターリース契約が終了した場合におけるサブリース業者の権利義務の承継に関する事項
- 2.14 (14)借地借家法その他マスターリース契約に係る法令に関する事項の概要
- 3 不動産オーナーや投資家の注意点(重要事項説明書)
重要事項説明書(サブリース新法)を読む前の注意点
サブリース新法の施行により、サブリース業者はマスターリース契約締結の前に「重要事項説明書」による説明と交付をしなければなりません。
具体的には、以下の【記載事項】(1)~(14)を書面に記載し、説明をしなければならないとしています。
オーナー側は、必要な内容が重要事項説明書に記載されているかを確認することが重要です。
重要事項説明書の作成の注意点をチェックする
重要事項説明書の作成にあたっては、国土交通省から以下の留意点が示されています。
(サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン)
・「書面の内容を十分に読むべき旨」を太枠の中に太字波下線で、日本産業規格Z8305に規定する「12ポイント以上の大きさ」で記載すること。
・書面の内容を十分に読むべき旨の次に、借地借家法第32条、借地借家法第28条の適用を含めたマスターリース契約を締結する上でのリスク事項を記載すること。
・書面には日本産業規格Z8305に規定する「8ポイント以上の大きさの文字及び数字」を用いること。
・サブリース業者がオーナーに支払う家賃の額の記載の次に、当該額が減額される場合があること及び借地借家法第32条の概要(契約の条件にかかわらず借地借家法第32条第1項に基づきサブリース業者が減額請求を行うことができること、どのような場合に減額請求ができるのか、オーナーは必ずその請求を受け入れなくてはならないわけではないこと等)を記載すること。
・契約期間の記載の次に、借地借家法第28条の概要(借地借家法第28条に基づき、オーナーからの解約には正当事由が必要であること等)を記載すること。
重要事項説明書はマスターリース契約締結に先立って交付する書面であり、契約の締結時の書面(マスターリース契約書)とは交付するタイミングが異なる書面です。
そのため、重要事項説明書とマスターリース契約書の「両書面を一体で交付する」ことはできません。
契約するサブリース業者が、国土交通省の公表している書面・記載例を採用していれば大きな問題はないでしょう。
重要事項の書面による説明を行う際には、国土交通省による「重要事項説明書 記載例」に準拠した書面を用いることが望ましいでしょう。
重要事項説明書に記載する(14)の項目を確認しよう
記載事項(重要事項説明) | |
---|---|
(1) | マスターリース契約を締結するサブリース業者の商号、名称又は氏名及び住所 |
(2) | マスターリース契約の対象となる賃貸住宅 |
(3) | 契約期間に関する事項 |
(4) | マスターリース契約の相手方に支払う家賃の額、支払期日、支払方法等の条件並びにその変更に関する事項 |
(5) | サブリース業者が行う賃貸住宅の維持保全の実施方法 |
(6) | サブリース業者が行う賃貸住宅の維持保全に要する費用の分担に関する事項 |
(7) | マスターリース契約の相手方に対する維持保全の実施状況の報告に関する事項 |
(8) | 損害賠償額の予定又は違約金に関する事項 |
(9) | 責任及び免責に関する事項 |
(10) | 転借人の資格その他の転貸の条件に関する事項 |
(11) | 転借人に対する(5)の内容の周知に関する事項 |
(12) | マスターリース契約の更新及び解除に関する事項 |
(13) | マスターリース契約が終了した場合におけるサブリース業者の権利義務の承継に関する事項 |
(14) | 借地借家法その他マスターリース契約に係る法令に関する事項の概要 |
それでは、順番に詳細を見ていきましょう。
重要事項説明書 14の記載・説明事項(サブリース新法)
国土交通省が公表している「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」から抜粋・編集して解説します。
(1)マスターリース契約を締結するサブリース業者の商号、名称又は氏名及び住所
(2)マスターリース契約の対象となる賃貸住宅
「所在地、物件の名称、構造、面積、住戸部分(部屋番号、住戸内の設備等)、その他の部分(廊下、階段、エントランス等)、建物設備(ガス、上水道、下水道、エレベーター等)、附属設備等(駐車場、自転車置き場等)等」について記載し、説明すること。
(3)契約期間に関する事項
・「契約の始期、終期、期間及び契約の類型(普通借家契約、定期借家契約)」を記載し、説明する必要がある。
・特に、「契約期間は、家賃が固定される期間ではないこと」を記載し、説明すること。
(4)マスターリース契約の相手方に支払う家賃の額、支払期日、支払方法等の条件並びにその変更に関する事項
・サブリース業者がオーナーに支払う「家賃の額、支払期限、支払い方法、家賃改定日等」について記載し、説明すること(家賃の他、敷金がある場合も同様とする。)。
・サブリース業者がオーナーに支払う「家賃の設定根拠について、近傍同種の家賃相場を示す」などして記載し、説明すること。
・特に、契約期間が長期である場合などにおいて、「オーナーが当初の家賃が契約期間中変更されることがない」と誤認しないよう、家賃改定のタイミングについて説明し、「当初の家賃が減額される場合があること」を記載し、説明すること。
・さらに、契約において、「家賃改定日が定められていたとしても、その日以外でも、借地借家法に基づく減額請求ができること」についても記載し、説明すること。(詳細は(14))
・また、入居者の新規募集や入居者退去後の募集に、一定の時間がかかるといった理由から、「サブリース業者がオーナーに支払う家賃の支払いの免責期間」を設定する場合は、その旨を記載し、説明すること。
(5)サブリース業者が行う賃貸住宅の維持保全の実施方法
・サブリース業者が行う「維持保全」の内容について、回数や頻度を明示して可能な限り具体的に記載し、説明すること。
・維持保全の内容としては、住戸や玄関、通路、階段等の共用部分の点検・清掃等、電気設備、水道設備、エレベーター、消防設備等の設備の点検・清掃等、点検等の結果を踏まえた必要な修繕等が考えられる。
・賃貸住宅の維持保全と併せて、「入居者からの苦情や問い合わせへの対応」を行う場合は、その内容についても可能な限り具体的に記載し、説明すること。
・なお、維持又は修繕のいずれか一方のみを行う場合や入居者からの苦情対応のみを行い維持及び修繕(維持・修繕業者への発注等を含む。)を行っていない場合であっても、その内容を記載し、説明することが望ましい。
※
「賃貸住宅の維持保全」とは、居室及び居室の使用と密接な関係にある住宅のその他の部分である、玄関・通路・階段等の共用部分、居室内外の電気設備・水道設備、エレベーター等の設備等について、点検・清掃等の維持を行い、これら点検等の結果を踏まえた必要な修繕を一貫して行うことをいう。
たとえば、定期清掃業者、警備業者、リフォーム工事業者等が、維持又は修繕の「いずれか一方のみ」を行う場合や、エレベーターの保守点検・修繕を行う事業者等が、賃貸住
宅の「部分のみ」について維持から修繕までを一貫して行う場合、入居者からの苦情対応のみを行い維持及び修繕(維持・修繕業者への発注等を含む。)を行っていない場合は、賃貸住宅の維持保全には該当しない。
(6)サブリース業者が行う賃貸住宅の維持保全に要する費用の分担に関する事項
・サブリース業者が行う維持保全の具体的な内容や設備毎に、オーナーとサブリース業者のどちらが、「それぞれの維持や修繕に要する費用を負担するか」について記載し、説明すること。
・特に、オーナーが費用を負担する事項について誤認しないよう、例えば、設備毎に費用負担者が変わる場合や、オーナー負担となる経年劣化や通常損耗の修繕費用など、どのような費用がオーナー負担になるかについて具体的に記載し、説明すること。
・また、修繕等の際に、サブリース業者が指定する業者が施工するといった条件を定める場合は、必ずその旨を記載し、説明すること。
(7)マスターリース契約の相手方に対する維持保全の実施状況の報告に関する事項
・サブリース業者が行う維持保全の実施状況について、「賃貸人に報告する内容やその頻度」について記載し、説明すること。
(8)損害賠償額の予定又は違約金に関する事項
・引渡日に物件を引き渡さない場合や家賃が支払われない場合等の「債務不履行や契約の解約の場合等の損害賠償額の予定又は違約金を定める場合」はその内容を記載し、説明すること。
(9)責任及び免責に関する事項
・天災等による損害等、サブリース業者が責任を負わないこととする場合は、その旨を記載し、説明すること。
・オーナーが賠償責任保険等への加入をすることや、その保険に対応する損害についてはサブリース業者が責任を負わないこととする場合は、その旨を記載し、説明すること。
(10)転借人の資格その他の転貸の条件に関する事項
・反社会的勢力への転貸の禁止や、学生限定等の転貸の条件を定める場合は、その内容について記載し、説明すること。
(11)転借人に対する⑤の内容の周知に関する事項
・サブリース業者が転借人に対して周知を行う以下に掲げる維持保全の内容についてどのような方法(対面での説明、書類の郵送、メール送付等)で周知するかについて記載し、説明すること。
・サブリース業者が行う維持保全の具体的な内容(住戸や玄関、通路、階段等の共用部分の点検・清掃等、電気設備、水道設備、エレベーター、消防設備等の設備の点検・清掃等、点検等の結果を踏まえた必要な修繕等)、その実施回数や頻度
・サブリース業者が行う入居者からの苦情や問い合わせへの対応の具体的な内容(設備故障・水漏れ等のトラブル、騒音等の居住者トラブル等)、対応する時間、連絡先
(12)マスターリース契約の更新及び解除に関する事項
・オーナーとサブリース業者間における契約の更新の方法(両者の協議の上、更新することができる等)について記載し、説明すること。
・オーナー又はサブリース業者が、契約に定める義務に関してその本旨に従った履行をしない場合には、その相手方は、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないときは、契約を解除することができる旨を記載し、説明すること。
・契約の解約の場合の定めを設ける場合は、その内容及び(8)について説明すること。
・契約の更新拒絶等に関する借地借家法の規定の概要については、(14)の内容を記載し、説明すること。
(13)マスターリース契約が終了した場合におけるサブリース業者の権利義務の承継に関する事項
・入居者の居住の安定を図るため、マスターリース契約が終了した場合、オーナーがサブリース業者の転貸人の地位を承継することとする定めを設け、その旨を記載し、説明すること。
・特に、転貸人の地位を承継した場合に、「正当な事由なく入居者の契約更新を拒むことはできない」こと、「サブリース業者の敷金返還債務を承継する」こと等についてオーナーが認識できるようにすること。
(14)借地借家法その他マスターリース契約に係る法令に関する事項の概要
a. 借地借家法第32条第1項(借賃増減請求権)について
・マスターリース契約を締結する場合、借地借家法第32条第1項(借賃増減請求権)が適用されるため、サブリース業者がオーナーに支払う家賃が、変更前の家賃額決定の要素とした事情等を総合的に考慮した上で、
①土地又は建物に対する租税その他の負担の増減により不相当となったとき
②土地又は建物の価格の上昇又は低下その他の経済事情の変動により不相当となったとき
③近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき
は、契約の条件にかかわらず、サブリース業者は家賃を相当な家賃に減額することを請求することができること、を記載し、説明すること。
および、空室の増加やサブリース業者の経営状況の悪化等が生じたとしても、上記①~③のいずれかの要件を充足しない限りは、同条に基づく減額請求はできないことを記載し、説明すること。
・特に、契約において、家賃改定日が定められている場合や、一定期間サブリース業者から家賃の減額はできないものとする、○年間は家賃の減額をできないものとする、オーナーとサブリース業者が合意の上家賃を改定する等の内容が契約に盛り込まれていた場合であっても、借地借家法第32条第1項に基づき、サブリース業者からの家賃の減額請求はできることを記載して説明する。
オーナーが、これらの規定により、サブリース業者からの家賃減額はなされないと誤認しないようにすること。
・さらに、借地借家法に基づき、サブリース業者は減額請求をすることができるが、オーナーは必ずその請求を受け入れなければならないわけでなく、オーナーとサブリース業者との間で、変更前の家賃決定の要素とした事情を総合的に考慮した上で、協議により相当家賃額が決定されることを記載し、説明すること。
なお、家賃改定額について合意に至らない場合は、最終的には訴訟によることとなる。(※)
※
借地借家法に基づく家賃減額請求権の行使が認められた平成 15 年 10 月 23 日の最高裁判決においては、「家賃減額請求の当否や相当家賃額を判断するに当たっては、賃貸借契約の当事者が家賃額決定の要素とした事情を総合考慮すべきであり、特に本件契約においては、上記の家賃保証特約の存在や保証家賃額が決定された事情をも考慮すべきである。」とされ、その後の差戻審において、「被控訴人が本件の事業を行うに当たって考慮した予想収支、それに基づく建築資金の返済計画をできるだけ損なわないよう配慮して相当家賃額を決定しなければならないというべきである。」と判断された。
b. 借地借家法第28条(更新拒絶等の要件)について
・普通借家契約としてマスターリース契約を締結する場合、借地借家法第28条(更新拒絶等の要件)が適用されるため、オーナーから更新を拒絶する場合には、
①オーナー及びサブリース業者(転借人(入居者)を含む)が建物の使用を必要とする事情
②建物の賃貸借に関する従前の経過
③建物の利用状況及び建物の現況並びにオーナーが建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えにサブリース業者(転借人(入居者)を含む)に対して財産上の給付をする
旨の申出をした場合におけるその申出
を考慮して、「正当の事由」があると認められる場合でなければすることができない旨を記載し、説明すること。
・特に、契約において、オーナーとサブリース業者の協議の上、更新することができる等の更新の方法について定められている場合に、オーナーが、自分が更新に同意しなければ、サブリース業者が更新の意思を示していても、契約を更新しないことができると誤認しないようにすること。
上記、①②③ の「正当事由」がないと、オーナーはサブリース業者との更新を拒絶することができない。
c. 借地借家法第38条(定期建物賃貸借)について
・定期借家契約としてマスターリース契約を締結する場合、家賃は減額できないとの特約を定めることにより、借地借家法第32条の適用はなく、サブリース業者から家賃の減額請求はできないことを記載し、説明すること。
・定期借家契約としてマスターリース契約を締結する場合、契約期間の満了により、契約を終了することとできることを記載し、説明すること。
・定期借家契約としてマスターリース契約を締結する場合、オーナーからの途中解約は、原則としてできないことを記載し、説明すること。
不動産オーナーや投資家の注意点(重要事項説明書)
オーナー側は、マスターリース契約での誤解やトラブルを回避しなければなりません。
そのためには、契約前の重要事項説明・書面が「サブリース新法に則っているものかどうか」を見極める必要があります。
その中でも特に重要なポイントは、必ずおさえておきましょう。
- サブリース業者が国土交通省が示す「作成の留意点」に沿って作成しているか
- 国土交通省が公表している書式を採用しているか
- 必要な(14)の記載事項を記載例(国土交通省)に沿って作成しているか
- 家賃減額の可能性について記載しているか
- 家賃の減額請求は、双方の協議により決定することが記載されているか
- 契約期間中の解約について記載しているか
- オーナー側からの契約更新の拒絶には「正当事由」が必要なことが記載されているか
家賃の減額については、下記の記載があるかをチェックしましょう。
- オーナーに支払う家賃が「減額される場合がある」
- サブリース業者が「減額請求を行うことができる」
- どのような場合に減額請求ができるのか
- 「オーナーは必ずその請求を受け入れなくてはならないわけではない」
また、サブリース業者とのマスターリース契約の更新拒絶については、オーナー側に「正当事由」がないとすることができません。
オーナーが更新に同意しなければ、サブリース業者が更新の意思を示していても、契約を更新しないことができると誤認しないようにしてください。
なお、契約期間中に(1)~(14)に掲げる事項に変更があった場合には、少なくとも変更のあった事項について、サブリース業者はオーナーに対して書面の交付等を行った上で説明することとなっています。