サブリース新法(賃貸住宅管理業務等の適正化に関する法律)によってマスターリース契約前の「重要事項説明」と書面の交付が義務付けられました。
しかし、不動産オーナーや投資家がその内容を正確に理解するのは大変ですよね。
実は、国土交通省のガイドラインによって、14 の項目別にポイントが示されています。
オーナーとサブリース業者とのトラブルを防止するために、項目ごとに解説がなされているのです。
筆者は、サブリース業者側として「マスターリース契約書」の作成に10年以上の経験があります。
オーナー側が注意する点について熟知しているため、経験を生かして詳しく解説をしています。
このコンテンツでは、マスターリース契約前の「重要事項説明書」の記載事項の中でも、オーナーがチェックするべき特に重要な「6つのポイント」を解説しています。
実際の「重要事項説明書 記載例」(国土交通省)を見ながら、わかりやすくお伝えします。
サブリース事業をおこなう際は、そのリスクをチェックしておくことが重要です。
このコンテンツを読むことで、不動産オーナーは重要事項説明書の内容とそのリスクを理解してサブリース事業に臨むことができます。
サブリース事業者とのトラブルを防止することにつながります。
目次(もくじ)
重要事項説明書のチェックポイント6つ(オーナー向け)
マスターリース契約の重要事項説明書は、以下の「6つのポイント」が特に重要です。
不動産オーナーや投資家は、必ずチェックするようにしてください。
- 重要事項説明書「作成の注意点」を知っておく
- 「契約期間」に関する事項をチェックする
- 「家賃等」に関する事項をチェックする
- 「維持保全」についてチェックする
- 「損害賠償額の予定・違約金」に関する事項をチェックする
- 契約の「更新・解約・解除」についてチェックする
逆にいうと、上記の6ポイントを満たしていない重要事項説明書は、サブリース新法に違反している可能性があります。
オーナー側はトラブルを回避するためにも、サブリース新法を順守して作成された「重要事項説明書」かどうか、サブリース業者との協議を含めて確認することが重要です。
重要事項説明書「作成の注意点」を知っておく(ポイント1)
重要事項説明を受ける不動産オーナーや投資家も、重要事項説明書「作成の留意点」について把握しておきましょう。
国土交通省のガイドラインに沿った重要事項説明書であるかどうか、オーナー側が見極めることが重要です。
重要事項説明書の作成にあたっては、国土交通省から以下の留意点が示されています。
(サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン)
●「書面の内容を十分に読むべき旨」を太枠の中に太字波下線で、日本産業規格Z8305に規定する「12ポイント以上の大きさ」で記載すること。
● 書面の内容を十分に読むべき旨の次に、「借地借家法第32条、借地借家法第28条の適用を含めたマスターリース契約を締結する上でのリスク事項」を記載すること。
上記の2点を以下でくわしく解説します。
「書面の内容を十分に読むべき旨」とは
国土交通省の重要事項説明書の「第一面」には、「書類の内容を十分に読むべき旨」の記載例が示されています。
このように太枠で囲み、 太字波下線 の 12ポイント以上の大きさ で記載しなければなりません。
重要事項説明書には、サブリース業者と「特定賃貸借契約」(マスターリース契約)を締結する上でのリスクや留意点が記載されていること、あらかじめよく読み不明な点は確認すること、が目立つように記載されています。
不動産オーナーや投資家が「重要事項説明書」の内容をしっかりと理解するように促しています。
「借地借家法第32条、借地借家法第28条の適用を含めたマスターリース契約を締結する上でのリスク事項」とは
この「リスク事項」には、3つの重要な記載があります。
リスク事項
- サブリース業者から支払われる家賃が「減額」される場合がある
- 契約期間中でも「解約」される場合がある
- オーナー側から契約更新を拒絶する場合には「正当事由」が必要となる
この3点は、重要事項説明書の中で何度か出てくるポイントです。
まずは、第一面に記載されている内容をよく読み、理解に努めましょう。
「契約期間」に関する事項をチェックする(ポイント2)
マスターリース契約の期間中であっても、サブリース業者からの「解約の申し入れ」により解約できる契約内容となっているケースが多く見られます。
オーナー側は、「解約の規定」についてよく確認することが重要です。
重要事項説明書(記載例)
本契約には、借地借家法第 28 条(更新拒絶等の要件)が適用されるため、お客様が更新を拒絶する場合には、
①お客様及び当社(転借人(入居者)を含む)が建物の使用を必要とする事情
②建物の賃貸借に関する従前の経過
③建物の利用状況及び建物の現況並びにお客様が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに当社(転借人(入居者)を含む)に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければすることができません。
マサブリース業者とのマスターリース契約の「更新」をオーナー側が拒絶する場合には、「正当事由」が必要です。(借地借家法 第28条 更新拒絶等の要件)
この正当事由は、オーナー側にとって非常に厳しい条件と言われています。
正当事由がないと賃借人(サブリース業者)は「更新」が可能になり、オーナー側からマスターリース契約を終了させるのは難しくなります。
「家賃等」に関する事項をチェックする(ポイント3)
- 家賃の「減額」
- 家賃の「免責期間」
家賃の見直し(減額)についてチェックしよう
重要事項説明書(記載例)・上記の家賃改定日における見直しにより、家賃が減額となる場合があります。・本契約には、借地借家法第32条第1項(借賃増減請求権)が適用されるため、上記の家賃改定日以外の日であっても、当社からお客様に支払う家賃が、上記記載の家賃額決定の要素とした事情等を総合的に考慮した上で、
①土地又は建物に対する租税その他の負担の増減により不相当となったとき
②土地又は建物の価格の上昇又は低下その他の経済事情の変動により不相当となったとき
③近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、本契約の条件にかかわらず、当社は家賃を相当な家賃に減額することを請求することができます。
・ただし、空室の増加や当社の経営状況の悪化等が生じたとしても、上記①~③のいずれかの要件を充足しない限りは、同条に基づく減額請求はできません。
・また、借地借家法に基づく、当社からの減額請求について、お客様は必ずその請求を受け入れなければならないわけでなく、当社との間で、変更前の家賃決定の要素とした事情を総合的に考慮した上で、協議により相当家賃額が決定されることとなります。
多くのサブリース業者がオーナーに支払う家賃を「定期的に見直す」ことを契約書に記載しています。(借地借家法 第32条第1項 借賃増減請求権)
家賃が減額される場合もあります。
ただし、サブリース業者の請求を必ず受け入れなければならないわけではありません。
最終的には、両者の協議によって家賃額が決定されることになります。
家賃の「免責」についてチェックしよう
サブリース業者がオーナーに支払う家賃の「免責期間」が設定されている場合があるので注意しましょう。
この間はオーナー側に家賃が入ってきません。
金融機関への返済がある場合、免責期間中は「オーナーの自己資金」で対応しなければならないので注意が必要です。
◆ 引き渡し日から〇か月
免責期間とは、賃貸住宅の建物が完成し、サブリース業者に引渡されてから〇か月間は家賃が支払われない、という項目です。
特に新築の建物の場合は、入居者が全くいない状態のため、サブリース業者がオーナーに家賃を支払うことは困難です。
そのため、「サブリース業者が入居者募集・案内・契約にいたるまでの期間」と考えてよいでしょう。
◆退出募集に係る免責期間
入居者が退去すると、サブリース業者は次の入居者を募集しなければなりません。
その間にオーナーに支払う家賃を免責する期間です。
たとえば、まとまって空室が出ると免責期間により家賃の支払いが減少します。
金融機関への返済へも影響するのでオーナーは注意が必要です。
この「免責期間」を設定していなかったり、設定していても機関が短かったりするサブリース業者は、次の入居者を見つけるのが早いとも言えます。
「維持保全」についてチェックする(ポイント4)
オーナーは、賃貸住宅の「維持保全」に関する項目を(5)・(6)・(7)をチェックしておきましょう。
- 維持保全の実施(5)
- 維持保全の費用負担(6)
- 維持保全の報告(7)
オーナー側は、どの部分を、誰の費用負担で、どのように実施するのか、を把握しておくことが重要です。
「維持保全」の詳細については、下記のコンテンツで解説しています。
「損害賠償額の予定・違約金」に関する事項をチェックする(ポイント5)
オーナーは、「損害賠償・違約金」に関する事項も必ずチェックしておきましょう。
重要事項説明書(国土交通省)には、下記の内容が事例として記載されています。
引渡日までの間の解約を行う場合は、○日前に申し入れをすることとし、違約金は○円とします。
契約の「更新・解約・解除」についてチェックする(ポイント6)
重要事項説明書の記載例(12)では、マスターリース契約の「更新」「解約」「解除」の規定が記載されています。
オーナーにとっては、どの項目も非常に重要な項目ですので、必ずチェックしておきましょう。
(参考)
解除・・・遡及的に契約を消滅させるもの
解約・・・将来に向かって契約を消滅させるもの
法令上の用語と必ずしも一致するわけではありません。
民法で、解除とは、契約当事者の一方の意思表示によって、契約の効力を遡及的に消滅させ、契約が初めから存在しなかったと同じような法律効果を生じさせること、をいいます。
マスターリース契約の「更新」と「更新拒絶」について
オーナー(甲)とサブリース業者(乙)は、協議の上、マスターリース契約を「更新」することができます。
また、マスターリース契約の「更新」をオーナー側が拒絶する場合には、「正当事由」が必要です。(借地借家法 第28条 更新拒絶等の要件)
重要事項説明書(記載例)
本契約には、借地借家法第 28 条(更新拒絶等の要件)が適用されるため、お客様が更新を拒絶する場合には、
①お客様及び当社(転借人(入居者)を含む)が建物の使用を必要とする事情
②建物の賃貸借に関する従前の経過
③建物の利用状況及び建物の現況並びにお客様が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに当社(転借人(入居者)を含む)に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければすることができません。
この正当事由は、オーナー側にとって非常に厳しい条件と言われています。
正当事由がないと賃借人(サブリース業者)は「更新」が可能になり、オーナー側からマスターリース契約を終了させるのは難しくなります。
マスターリース契約の「解約」について
サブリース業者が「マスターリース契約を解約する」場合の規定を確認しておきましょう。
両者が協議して解約する、いわゆる「合意解約」です。
国土交通省の重要事項説明書では、下記の事例が記載されています。
乙は、甲に対して少なくとも○ヶ月前に解約の申し入れを行うことにより、本契約を解約することができます。
甲:オーナー
乙:サブリース業者
マスターリース契約の「解除」について
甲は、乙が家賃支払義務を3ヶ月以上怠ったとき、転貸の条件に従い転貸する義務に違反した場合、及び維持保全の費用負担義務に違反した場合に、甲が相当の期間を定めて当該義務の履行を催告したにもかかわらず、その期間内に当該義務が履行されないときは、本契約を解除することができます。
※その他、家賃改定の協議で合意できなければ契約が終了する条項や、一定期間経過後との修繕に応じない場合には契約を更新しないこととする場合は、その旨を記載し説明すること。
甲:オーナー
乙:サブリース業者
オーナー又はサブリース業者が、契約に定める義務に関してその本旨に従った履行をしない場合には、その相手方は、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないときは、「契約を解除する」ことができる旨を記載し、説明することが必要です。
契約の解約の場合の定めを設ける場合は、その内容、損害賠償・違約金についても説明します。
※その他、家賃改定の協議で合意できなければ契約が終了する条項や、一定期間経過後との修繕に応じない場合には契約を更新しないこととする場合は、その旨を記載し説明すること。
乙の権利義務の承継に関する事項について
マスターリース契約が終了した場合、オーナーは、転貸借契約におけるサブリース業者の転貸人の地位を承継することとします。
つまり、契約が終了すればサブリース業者の関与がなくなるので、入居者に対する貸主はオーナーとなります。
転貸人の地位を承継した場合、正当な事由なく入居者の契約更新を拒むことはできません。(借地借家法 第28条)
また、その場合、オーナーはサブリース業者の「敷金返還債務」を承継することなります。
まとめ(重要事項説明書 6つのポイント)
国土交通省は、重要事項の書面による説明を行う際には、公表している「重要事項説明書 」「記載例」に準拠した書面を用いることが望ましい、としています。
オーナー側は、重要事項説明書が「国土交通省の書面に準じたもの」であるかどうかを確認することが重要です。
そのためにも、国土交通省の「重要事項説明書」と「記載例」には目を通しておきましょう。(下記)