2020年に民法が改正(施行)され、社会・経済の変化へ対応して一般にわかりやすい民法とするために、確立した判例などの基本的なルールが明文化されています。
そして、新たな改正民法が2022年(令和4年)4月1日より施行されています。
今回の改正により、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられました。
賃貸住宅業(シェアハウス含む)にも影響が及びます。
このコンテンツでは、近年に改正された民法の「不動産の賃貸借契約に関係する部分」について解説(シェアハウスを含む)しています。
今後は18歳や19歳の入居者と賃貸借契約を結ぶことも出てくるため、オーナーや管理会社も対応を迫られます。
改正民法の内容とポイントに加え、国土交通省が作成した「賃貸借契約書のひな形」も掲載しています。
新しい規定を取り入れた賃貸借契約書を作成することができます。
オーナーや管理会社にとっては、スムーズな準備と対応が可能になります。
民法の一部を改正する法律(債権法改正)について[法務省]
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_001070000.html
目次(もくじ)
「民法改正」3つの重要ポイント(賃貸住宅・シェアハウス)
近年の民法改正の中で住宅などの賃貸借契約に関わるポイントは3つあります。
- 成人年齢(18歳)について
- 保証人(連帯保証人)について
- 原状回復義務について
成人の年齢が18歳に引き下げられました。(2022年4月より)
入居者に対して「保証人や保証会社」を求める場合は、極度額を設定する必要があります。
退去時の「原状回復義務」については、対象の範囲を明確にしておかなければなりません。
改正民法の内容とポイントについて、詳しく見ていきましょう。
18歳から成人年齢となる改正(ポイント1)
生年月日 | 新成人となる日 | 成年年齢 |
2002年(平成14年)4/1 以前 生まれ | 20歳の誕生日 | 20歳 |
2002年 4/2 ~ 2003年 4/1 生まれ | 2022年 4/1 | 19歳 |
2003年 4/2 ~ 2004年 4/1 生まれ | 2022年 4/1 | 18歳 |
2004年(平成16年)4/2 以降 生まれ | 18歳の誕生日 | 18歳 |
- 親の同意なしに消費者契約を結べる(賃貸住宅・クレジットカード・携帯電話など)
- 若者の消費者トラブルが増加する恐れ(マルチ商法・定期購入など)
- 家賃滞納や支払い不能の可能性も
賃貸住宅の契約が18歳で可能に
改正民法で成人年齢が引き下げられることにより、「親の同意がなくても18歳で賃貸借契約」が可能になります。
賃貸住宅のオーナーや管理会社は、契約者の収入や与信については注意が必要になりそうです。
シェアハウスの場合は入居者との契約時に保証会社を付けないケースが多いため、自社の与信ノウハウを最大限に生かすことが必要になります。
定期賃貸借契約を活用し、契約時には家賃を滞納したら解約になる旨や再契約ができなくなることをしっかりと説明します。
「実家・学校・勤務先の住所や連絡先」を把握し、何かあったときはすぐに連絡ができるようにしておくことも重要です。
18歳で様々な契約が可能になるため、入居者が「消費者トラブル」に巻き込まれる可能性もあります。
たとえば、マルチ商法や悪質商法、高額契約など。
また、クレジットカードや携帯電話の契約も可能になるため、買い物やネット課金などによる支出が急増する恐れも。
ローンや消費者金融などの契約もできるので、借金がふくらんだり最悪は自己破産したりする可能性も否定できません。
家賃の滞納がある入居者が自己破産すれば、免責されて支払われません。
オーナーや管理会社にとってのダメージは大きくなりますので、注意が必要です。
政府や自治体の取り組みを生かす
2022年4月に施行の改正民法に合わせ、若者がマルチ商法などのトラブルに巻き込まれるのを未然に防ごうと、政府や自治体が様々な啓発活動をしています。
オーナーや管理会社は、賃貸物件のある自治体の取り組みを確認してみましょう。
たとえば、消費者トラブルに関する「リーフレット」を作成している自治体もあります。
事前にリーフレットを入手しておけば、物件の契約時に渡すことができます。
■政府による啓発など
・18歳・19歳に気を付けてほしい消費者トラブル 国民生活センター (kokusen.go.jp)
・政府による動画 「2022年4月 成年年齢引下げ 18歳で大人! できること。できないこと。」(政府広報オンラインへのリンク)
「保証人」に関する改正(ポイント2)
- 保証人が負うべき責任の上限額(極度額)を定める
- 定めていない場合その契約は「無効」となる(保証人の責任が限定される)
- 極度額の目安は「家賃の1~2年分」ほど(判例など)
アパートなどの賃貸契約時には、保証人(連帯保証人)を立てることが通例ですよね。
家主は家賃の滞納などに備えて、入居者の親などと保証契約を結ぶわけです。
これまでの契約では債務の対象が特定されにくいこともあり、保証人が多額の損害を請求されたケースがあります。
そのため、改正民法の保証契約では「極度額」を定めることが必要になります。
保証人が責任を負う限度の金額(上限額)を決める、ということです。
2020年4月1日以降に結ぶ保証契約は、この極度額を定めないと契約が「無効」となるので注意が必要です。
(※2020年3月31日以前に結ばれた契約は依然として有効です。)
シェアハウス運営では、保証人を求めずに入居契約をするオーナーや管理会社もあります。
しかし、入居時に保証人の契約を義務付けているオーナーや管理会社は、改正民法に合わせた内容に変更する必要があります。
極度額の設定については、国土交通省が「参考資料」を公表しています。
「原状回復義務」に関する改正(ポイント3)
- 原状回復の「範囲」を定める
- 敷金の返還にも影響する可能性あり
アパートなど退去時の「原状回復義務」のルール改正が行われています。
通常の賃貸借契約書には、借り手は「原状回復して明け渡さなければならない」などと書かれていることも多いと思います。
現行の民法には原状回復の「範囲」についての規定がないので、借り手の義務がどこまで及ぶのかが不明確でした。
そのため、家主や管理会社は「部屋を入居時の状態に戻す必要がある」などと主張することもあるのが現状です。
壁紙の貼り替えや水回り設備の交換などの名目で多額の費用を請求したり、敷金の返還を拒んだりして、借り手とトラブルになる事例も多く発生しています。
改正民法では、原状回復義務は「借り手の不注意」によって壁や床を汚したり傷つけたりする場合などが対象としています。
「普通に暮らしていて生じる損耗や経年劣化」は、原状回復の範囲に含まれず、家主が請求することは難しくなります。
シェアハウスの運営の特徴としては、契約期間が比較的短く、また個室内に水回り設備がないことがあげられます。
そのため、原状回復義務に関してのトラブルがほとんどなく、「これまで通りの運用で問題がない」という点はメリットです。
「約款」に関する改正も
2020年の改正民法では「約款」に関する規定が加えられ明文化されました。
約款(やっかん)とは、同じ取引を効率的に行なうために作られた定型的な内容の取引条項のことです。(定型約款)
企業が約款を契約内容とする旨をあらかじめ相手方に表示すれば、契約が成立したとみなされます。
また、相手方の一般的な利益になる場合は、契約後に定型約款の内容を変更できるとしています。
シェアハウスや保証人の契約などで「約款」を使用しているオーナーや管理会社があれば、今回の改正民法に対応する必要があります。
筆者の経験談(シェアハウス運営・管理)
筆者が管理・運営を経験したシェアハウスでは、入居者の賃貸借契約時に「保証人(連帯保証人)・保証会社」は不要としていました。
その理由は、シェアハウスがアパートやマンションに比べて「気軽に入居できること」が特徴・メリットだからです。
保証契約のやり取りや保証会社の申請・審査があると、入居時のハードルが上がってしまいます。
スピーディーな入居ができず、運営側は他のシェアハウスとの競争にも勝つことができません。
ではシェアハウス運営はどのように行なっているかというと、契約時に「緊急連絡先」として実家の住所と電話番号を確認しています。
職場や学校の連絡先を確認する場合もあります。
家賃滞納などのトラブルがあった場合は実家などに連絡し、結果的に入居者の親が支払うこともあります。
もちろん正式な「保証人」ではないので、法的に請求することはできません。
しかし、オーナーや管理会社が「入居者の緊急連絡先」を把握しておくことは、トラブルの抑止や解決につながることもあるので重要です。
シェアハウス運営では、家賃滞納や原状回復の案件があったときに、「保証人や保証会社がなくても運用できる」体制を整えておく必要があります。
民法改正の関連ニュース(アパートローンの影響)
不動産経営やオーナーに関わる民法改正に関わるニュースです。
- 法定相続人の「連帯保証」をなくす(原則)
- 賃貸事業の審査に影響する
2020年4月に施行の改正民法を受け、大手銀行は融資の条件としてきた「個人保証」を見直すようです。(日本経済新聞)
個人が賃貸住宅を建てる際に利用するアパートローンで、法定相続人の連帯保証を原則なくす方針。
これは、債務者がローン返済に行き詰まると、保証人の生活への影響が大きいという問題があったことによります。
たとえば、これまでは高齢のオーナーが融資を受ける際には、法定相続人である息子などが連帯保証をするのが通例でした。
民法改正後は、個人が事業用の融資の保証人になろうとする場合、原則として「公証人」に引き受けの意思を示す必要があります。
- 公証役場に行く
- 保証意思確認の手続(保証意思宣明公正証書の作成の嘱託)を行う
- 保証意思宣明公正証書は,保証契約締結の日前1か月以内に作成されている必要がある
- この手続は,保証人になる本人自身が公証人から意思確認を受ける(代理人に依頼できない)
- 公証人から,「保証意思を有しているのか」を確認される
- 所要の手続を経て,保証意思が確認された場合には,公正証書(保証意思宣明公正証書)が作成される
上記のような保証人の設定手続きが煩雑になるため、大手の銀行はアパートローンで法定相続人からの保証を取らない方針です。
一部の地方銀行も追随する可能性が高いと言われています。
これまで銀行は、高齢者が事業を行う場合に本人が亡くなったときに備えて子どもなどの法定相続人に債務を引き継ぐことを融資条件としていました。
今後は法定相続人などの「個人保証」がなくなる分、地方銀行を含めて一部の融資では審査が厳しくなったり、融資時の金利が高くなったりする可能性があります。
これからの不動産経営は、資金調達がますます厳しくなると言えるでしょう。
(参考)
保証のルールが変わります(法務省)
資料など(国土交通省の標準契約書)
国土交通省は、民法などの改正に合わせて入居者と契約する際の「標準契約書」を作成しています。
まとめ(民法改正と賃貸住宅・シェアハウス経営)
施行された改正民法について、賃貸契約にかかわる内容について見てきました。
シェアハウスの管理運営の方針によっては、対応が不要な項目もあるかもしれません。
賃貸借契約書の修正や見直しなど、法律の施行までに必要な業務を行なうようにしていきましょう。
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