【不動産書面の電子化】国土交通省マニュアルを解説します(重要事項説明書・媒介契約書など)
不動産取引の電子化について解説します

 

 

令和4年(2022年)5月18日より、宅地建物取引業法(施行規則の一部)が改正され、不動産取引時の「書面の電子化」が可能になりました。
たとえば、メールやダウンロード形式で書面の提供(電子書面)ができるようになっています。

これにより、IT重説と組み合わせることで、不動産の売買や賃貸契約の場面で、契約の締結・重要事項説明・重要事項説明書の交付や受け取りまでを「オンライン」で行うことが可能に。

実施場所に制約もないため、相手方が日本国外にいる場合でも、重要事項説明書等の電磁的方法による提供や、テレビ会議等のITを活用して行う重要事項説明(いわゆる「IT重説」)の実施などができるようになります。
このコンテンツでは、「不動産書面の電子化の実務」について、不動産業者(宅地建物取引業者)と不動産取引の当事者(オーナー)に向けて解説しています。
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不動産取引の「電子化」できる書面について(事例)

ノートパソコン:資料:準備:写真画像

電子化できる不動産の書面とは

 

 

今回の宅地建物取引業法の改正によって、「電子化」できる不動産取引の書面の事例には以下のようなものがあります。

 

  • 契約締結書面(賃貸借契約書・売買契約書など)
  • 重要事項説明書
  • 宅建業者の媒介契約書
  • マンション管理等の委託契約書

 

また、不動産取引をテレビ会議等のITを活用して行えば(いわゆる「IT重説」)、重要事項説明・重要事項説明書・契約・契約書の交付や受け取りまでを「オンライン」で行うことが可能になります。

 

 

実施するための「要件」とは(電磁的方法による提供)

契約書や重要事項説明書等の電磁的方法による提供・IT重説を実施するに当たって、国土交通省はマニュアルにて実施の「要件等」を公表しています。

要件は、大きくわけて次の5つが示されています。

 

・承諾の取得(IT環境の確認も)

・提供の要件

・確認方法の説明(改変)

・保存の必要性・方法の説明

・トラブル時の提供の停止

 

不動産書面の電子化(フロー図)

 

 

国土交通省の実施マニュアルには、必ず対応すべきである「遵守すべき事項」、契約当事者間でのトラブル防止の観点から可能な限り対応すべきである「留意すべき事項」が示されています。

以下、これに沿って解説していきます。

 

「承諾」の取得について(電磁的方法)

平成から令和へパソコンで修正する人:写真画像

相手方から「承諾」を得る流れを解説します

 

 

電磁的方法による(電子書面等の)提供に係る「承諾の取得」は、以下の流れで行ないます。

 

  1.  相手方等の「IT環境」の聞き取り
  2.  必要な「説明事項」を説明する
  3.  決められた「取得方法」のいずれかで承諾を取得する

 

まず不動産業者は、依頼者や相手方が利用しようとする「IT環境」を聞き取る必要があります。

 

遵守
宅建業者は、利用予定のソフトウェア等に説明の相手方等が対応可能であるかの確認を行う

 

具体的には、事前に以下を確認しましょう。

 

  • 重要事項説明書等の電磁的方法による提供をダウンロード形式により行う場合に、説明の相手方等のIT環境が対応可能か
  • 提供する電子書面が改変されていないかどうかを説明の相手方等が確認する際に、説明の相手方等のIT環境が対応可能か
  • 宅建業者が重要事項説明書等の電磁的方法による提供に当たって利用を予定するソフトウェア等に対応可能であるか

 

なお、宅建業者及び説明の相手方等が利用する端末や使用するOS(例:Windows10)を含め、ソフトウェア等に指定はありません。

電磁的方法により媒介契約前の書面を提供しようとする場合は、 依頼者がこれを確実に受け取ることができるように、用いる電磁的方法(電子メールによる方法、WEBでのダウンロードによる方法、 CD-ROM の交付等)やファイルへの記録の方式(使用ソフトウェアの形式やバージョン等)を示した上で、依頼者が承諾したことが記録に残るよう、書面への出力が可能な方法(電子メールによる方法、 WEB上で承諾を得る方法、CD-ROM の交付等)又は書面で承諾を得るものとする。 

 

留意
電子書面が見やすい端末を利用することを説明の相手方等へ推奨する

 

説明の相手方等が利用する端末によっては、文字や画面自体のサイズが小さく見づらいなど、電子書面の見やすさに課題があることが考えられます。

相手方等がスマートフォンのみで説明を受ける場合には、スマートフォンにおける閲覧アプリによっては、署名パネルでの確認ができない可能性があることも。

このため、なるべくパソコン等の電子書面を見やすい端末を利用するよう、説明の相手方等に推奨することが望ましいとしています。

 

また、重要事項説明書等の電磁的方法による提供には、「電子書面が改変されていないかどうかを確認することができる措置」が要件となっています。

電子署名を利用している場合は、署名パネルでの確認方法を説明できるように、電子書面が見やすい端末を利用するように推奨することが望ましいと考えられます。

 

 

遵守
説明の相手方等へ必要な「説明事項」を説明すること

 

重要事項説明書等の電磁的方法による提供を行うためには、説明の相手方等へ意向確認を行い、承諾を得なければなりません。

具体的には、説明の相手方等への電磁的方法による提供に係る意向確認に先だって、宅建業者は以下の点を示す必要があります。

 

  • 重要事項説明書等の電子書面を提供する方法(※)
  • 重要事項説明書等の電子書面のファイルへの記録の方式
    (ソフトウェアの形式(Excel や PDF等)やバージョン等)

 

※重要事項説明書等の電子書面を提供する際は、以下のいずれかの方法で行う
・ 電子書面を電子メール等により提供
・ 電子書面を Web ページからのダウンロード形式により提供
・ 電子書面を記録した CD-ROM や USB メモリ等の交付

 

 

遵守
決められた「取得方法」のいずれかで承諾を取得すること

 

重要事項説明書等の電磁的方法による提供を受けることについて、説明の相手方等からの「承諾」は、以下のいずれかの方法により取得する必要があります。

なお、電子メール等により承諾を得る場合には、承諾の有無をめぐる事後のトラブルを防止する観点から、承諾する旨を記録した電子書面を書面(紙)に出力可能なファイル形式で取得する必要があります。

 

● 説明の相手方等から「承諾」を得る方法

  • 承諾する旨を記載した書面(紙)を受領
  • 承諾する旨を電子メール等で受信
  • Web ページ上で、重要事項説明書等の電子書面を提供する方法および重要事項説明書等の電子書面のファイルへの記録の方式を示し、Web ページ上で承諾する旨を取得
  • 承諾する旨を記録した CD-ROM や USB メモリ等の受領

 

専任媒介契約の場合は、媒介の依頼者に対して「レインズの登録証(登録証明書)」の交付を電磁的方法による提供にて行うためには、依頼者に意向確認を行い「承諾」を得る必要があります。

 

また、説明の相手方等から電磁的方法による提供を受けることについて承諾を取得した後、電子書面を提供する方法に変更が生じた場合には、変更後の内容で「改めて説明の相手方等へ重要事項説明書等の電磁的方法による提供に係る承諾」を取得する必要があります。

 

重要事項説明書等の電磁的方法による提供を実施する場合の重要事項説明は、必ずしもIT重説である必要はありません。

また、IT重説を実施する場合の重要事項説明書は、必ずしも電磁的方法による提供を実施する必要はありません。

つまり、「重要事項説明書を電磁的方法で提供して実際の説明は対面で行う」ことも可能ですし、「重要事項説明書を書面で発行して(送付し)説明をIT重説で行う」ことも可能です。

 

 



 

「提供」の要件について

リモートワークのイラスト画像

電磁的方法による「提供」の要件を解説します

 

 

重要事項説明書等の電磁的方法による提供には、以下の要件が必要になります。

 

遵守
「要件」を満たした電子書面を提供する必要がある

 

提供する重要事項説明書等の電子書面は、以下の要件を満たす必要があります。

 

  • 説明の相手方等が出力することにより書面(紙)を作成できるものであること。
  • 電子書面が改変されていないかどうかを確認することができる措置を講じていること。

 

なお、35 条書面(重要事項説明書)については、提供する時点で改変防止措置(上記)を含む「全ての要件を満たす電子書面を提供する」ことが必要であることに留意してください。

また、重要事項説明書等に記載すべき内容を「別紙参照」などとして別の添付書類上に記載している場合、当該添付書類も重要事項説明書の一部として「本体と同様の要件を満たす」必要があります。

 

遵守
重要事項説明書等の電磁的方法による提供にかかる「宅建士」を明示する

重要事項説明書等の電磁的方法による提供を行う宅地建物取引士を明示するため、作成した重要事項説明書等の電子書面には、当該宅建士の記名が必要となります。(宅建業法:35条書面および37条書面)

 

遵守
電子書面の作成方法に留意すること

重要事項説明書等の電子書面を作成するに当たって、ファイルへの記録の方式に指定はありませんが、作成した電子書面を他のファイル形式に変換する際などに、使用していた文字や表が、文字化け、文字欠けが生じていないことや解像度の関係で表がぼやけてしまっていないかなどを確認する必要があります。

 

留意
「電子書面が改変されていないかどうかを確認することができる措置」の例

 

電子書面の提供先である説明の相手方等において、提供を受けた電子書面に記載されている事項が、提供を受けた時点と、将来のある時点で、同一の内容であることを確認することができる措置を指します。

なお、電子書面が改変されていないかどうかを確認することができるという要件を満たす措置としては、電子署名(※1)やタイムスタンプ(※2)が想定されます。

電子署名を利用した場合は、署名パネルなどの表示内容から電子書面が改変されていないかどうかを確認することができます。

確認する方法は、利用するサービス(ソフトウェア)により異なりますので、具体的な確認方法に疑義が生じる場合は、利用するサービスを提供している事業者に確認するようにしてください。

また、電子署名で用いられる電子証明書及びタイムスタンプには「有効期間」があることから、電子署名やタイムスタンプを利用する場合には、有効期間を説明の相手方等へ説明した上で、「有効期間後の取扱い」について事前に説明の相手方等と協議しておくことが望ましいと考えられます。

電子署名やタイムスタンプの有効期間の延長その他の方法で、継続して電子署名やタイムスタンプによって証明される内容の担保を行う場合で、具体的な方法に疑義がある場合には、利用するサービスを提供している事業者へ確認するようにしてください。

 

(※1)
「電子署名及び認証業務に関する法律(平成 12 年法律第 102 号)」第2条第1項において、「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいうと定義されています。
 ① 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
 ② 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

(※2)
「時刻認証業務の認定に関する規程(令和3年4月1日 総務省告示第 146 号)」第2条第1項において、「タイムスタンプ」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)に記録された情報(以下「電子データ」という。)に付与される時刻情報等の総体であって、次の要件のいずれにも該当するものをいうと定義されています。
 ① 当該電子データがある時刻に存在していたことを示すためのものであること。
 ② 当該電子データについて改変が行われていないかどうか確認することができるものであること。

 

国土交通省の「実施マニュアル」より

 

 

 

電子契約で用いる用語(解説)

 

●タイムスタンプ

電子書類改ざん防止技術。
「いつ」契約したかを証明する仕組み。

 

●電子署名

電子書類改ざん防止技術。
「誰が」「何を」契約したかを証明する仕組み。

 

●2要素認証

本人確認の仕組み。
署名者のメールアドレスなどにワンタイムパスワードが発行され、添付された暗号を入力することで署名者が本人であることを確認する。

 

 

遵守
承諾を得る際に示した方法で「提供」し、提供した旨の「通知」を行うこと

説明の相手方等から「承諾」を得る際に示した、重要事項説明書等の電子書面を提供する方法及び重要事項説明書等の電子書面のファイルへの記録の方式により、重要事項説明書等の電磁的方法による「提供」を行います。

 

重要事項説明書等の電子書面を提供する方法(下記のいずれか

  • 電子書面を電子メール等により提供
  • 電子書面を Web ページからのダウンロード形式により提供
  • 電子書面を記録した CD-ROM や USB メモリ等の交付

 

なお、重要事項説明書等の電子書面を提供した際には、説明の相手方等に対し、提供した旨の「通知」が必要となります。

「通知」の方法に指定はありませんが、下記のような例を参考にしてください。(国土交通省のマニュアルより)

 

電子書面を「提供」する方法 提供した旨の「通知」方法(例)
電子メール等による提供 電子メール等を送信後、電話で電子メール等を送信した旨を伝える

(※ 電子メールの開封確認機能等により、説明の相手方等が開封していたことを確認した場合には、通知は不要)

Webページからのダウンロード形式による提供 Web ページからのダウンロードが可能となった時に、電話や電子メール等でダウンロードが可能である旨を掲載 URL とともに伝える

または、Web ページからのダウンロードを可能とする対応等を行った後に、電話や電子メール等でダウンロードが可能となる予定日時を掲載予定 URL とともに伝える

(※ 説明の相手方等が Web ページを閲覧していたことを確認した場合には、通知は不要)

電子書面を記録した CD-ROM や USBメモリ等の交付 電子書面を記録した CD-ROM や USB メモリ等を発送後、電話や電子メール等で発送した旨を伝える

(※ 対面して手交する場合には、通知は不要)

 

説明の相手方等へ重要事項説明書等の電子書面を提供した旨を通知した後、電子書面が説明の相手方等に到達していること、提供した電子書面が閲覧可能であることと合わせて、文字化け、文字欠けなどが生じていないことを確認してもらう必要があります。

 

確認方法の説明について(改変)

パソコンでリモートする男性の写真画像

電子書面が「改変されていないか」についての確認(要件)

 

 

提供する重要事項説明書等の電子書面は「改変がされていないか」について、説明の相手方等に対して説明を行い、確実に理解してもらう必要があります。(下記)

 

  • 「改変されていないかどうか」をどのような方法で確認することができるのか
  • その方法が提供時点から将来のある時点において「改変されていないかどうか」を確認するために必要な方法であること

 

遵守
電子書面が「改変されていないかどうか」の確認方法を説明すること

宅建業者が電磁的方法による提供を行った電子書面と説明の相手方等に到達した電子書面に記載されている事項が、同一のものであることについて、説明の相手方等において実際に電子書面が改変されていないかどうかを確認してもらう必要があります。

なお、電子書面が改変されていないかどうかを確認することができる措置によって、改変されていないかどうかを確認する方法は異なりますので、説明の相手方等に説明が行えるよう、事前に必要な準備を行うようにしてください。

 

留意
電子書面が改変されていないかどうかの説明方法について(対面 or 非対面)

説明の相手方等への重要事項説明書等の電子書面が改変されていないかどうかの確認方法の説明については、対面で行うのか、非対面で行うのか、特に制約はないため、説明の相手方等との協議により決めるようにしてください。

 

留意
説明の相手方等が利用する端末等に応じた説明について

説明の相手方等が電子書面を用いた取引に不慣れな場合があるため、基本的な操作方法を説明しましょう。

特に電子書面が改変されていないかどうかを確認する際、どこをどうやって確認すればよいのかなど、丁寧に説明することが望ましいと考えられます。

なお、「電子署名」を利用している場合であって、署名パネルでの確認方法を説明の相手方等に説明する際に、説明の相手方等がスマートフォンのみで説明を受ける場合には、スマートフォンにおける閲覧アプリによっては、署名パネルでの確認ができない可能性があります。

そのため、パソコン等での確認方法を画面共有により説明するなどした上で、なるべくパソコン等に電子書面を保存することについて、説明の相手方等に推奨すべきと考えられます。



 

保存の必要性・方法の説明

データの保存:USBメモリ:CDロム:SDカードの写真画像

電子書面の「保存」について説明することも大切になる

 

留意
電子書面の保存の必要性・保存方法の説明について

電子書面の保存は重要であるため、電子書面の「保存の必要性」や「保存方法」を説明すべきだと考えられます。

保存方法についての制約はありませんが、どのような方法により保存することができるのかなどを説明し、必要に応じて、電子書面のバックアップを取っておくことや書面(紙)に出力したものと併せて保存することを説明の相手方等へ推奨することにより、トラブルの回避につながると考えられます。

 

留意
説明の相手方等への説明方法について(対面 or 非対面)

説明の相手方等への電子書面の保存の必要性及び保存方法の説明を行う場合には、対面で行うのか、非対面で行うのか、特に制約はないため、説明の相手方等との協議により決めるようにしてください。

 

 

トラブル時の提供の停止

注意を促す人の写真画像

トラブル時は電磁的方法による提供を「停止」する

 

遵守
電磁的方法による提供を中止する必要がある場合(下記)
  • 電子書面が閲覧できないトラブル等が生じ解消しない場合
  • 電磁的方法による提供の実施過程で、説明の相手方等の電磁的方法による提供に係る「意向の変更」により改めて拒否する旨の申出があった場合

 

留意
電磁的方法による提供の中止後の対応について

電磁的方法による提供を中止した後、中止の事由が取引自体の継続を拒否するものであった場合を除き、重要事項説明書等を書面(紙)により交付する方法に切り替えて、対応を行うことが可能です。

なお、書面(紙)により交付する方法に切り替える場合には、通常の方法と変わりませんので、34 条の2書面(媒介契約書)は宅建業者の記名、35 条書面(重要事項説明書)及び 37 条書面(契約書)は宅建士の記名を行うことを失念しないよう留意してください。

よくある質問(FAQ)

Q&A:写真画像

国土交通省によるFAQについて解説します

 

国土交通省の「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル」に掲載されているFAQから、主なものを記載しています。

 

全般のFAQ

重要事項説明書等の電磁的方法による提供やIT重説を行うためには、事前登録が必要ですか。
必要ありません。
重要事項説明書等の電磁的方法による提供やIT重説を実施するに当たり「遵守すべき事項」・「留意すべき事項」をマニュアル内に示しておりますので、内容を理解した上で実施ください。
顧客から重要事項説明書等の電磁的方法による提供やIT重説を求められた場合には、必ず実施しなければならないですか。
必ず実施しなければいけないということはありません。
相手方から重要事項説明書等の電磁的方法による提供やIT重説を求められた場合でも、宅建業者は、自らのIT環境や案件の特性を踏まえて、重要事項説明書等の電磁的方法による提供やIT重説の実施の可否について判断をすることができます。
顧客から重要事項説明書等の電磁的方法による提供を求められた場合でも、説明の相手方等からの承諾を得ることは必要ですか。
必要です。
【事前に確認したIT環境とは異なる機器等の使用】
顧客のIT環境を事前に確認しましたが、重要事項説明書等の電磁的方法による提供やIT重説を行うに際して、急遽、事前に確認した顧客のIT環境とは異なる機器等を利用したいという要望が顧客からありました。
この場合にも実施することは可能でしょうか。
説明の相手方等が新たに利用するIT環境を確認し、宅建業者において問題がないと判断すれば、重要事項説明書等の電磁的方法による提供やIT重説を実施することは可能です。
なお、重要事項説明書等の電子書面の提供に用いる電磁的方法の種類(電子メールやダウンロード形式等)又は重要事項説明書等の電子書面のファイルへの記録の方式(ソフトウェアの形式(Excel や PDF 等)やバージョン等)を事前に承諾を得たものから変更する場合は、改めて、説明の相手方等から、当該電磁的方法による提供を行うことに関する「承諾」を書面又は電子メール等で取得する必要があります。
意電磁的方法による提供の実施に当たり、承諾は誰から得る必要がありますか。
電磁的方法による提供を行う対象の書面によって承諾を得るべき対象は異なります。
34 条の2書面(媒介契約書)については、「媒介の依頼者」に対して承諾を得る必要があります。
35 条書面(重要事項説明書)については、宅地又は建物を取得又は借りようとしている者(売買であれば買主、賃貸であれば借主、交換であれば取得する各当事者)から承諾を得る必要があります。
37 条書面(契約書)については、次の区分に応じて、承諾を得る必要があります。
(1)自ら当事者として契約を締結した場合には、当該契約の相手方
(2)当事者を代理して契約を締結した場合には、当該契約の相手方及び代理を依頼した者
(3)自らの媒介により契約が成立した場合には、当該契約の各当事者
重要事項説明書等の電磁的方法による提供に係る承諾は、34 条の2書面、35 条書面、37 条書面それぞれ分けて行う必要がありますか。
分けて行うほか、電磁的方法による提供の対象となる書面の種類が「承諾」の際に明示的に特定されるのであれば、一度に承諾を得ることは可能です。
重要事項説明書等の電磁的方法による提供に係る承諾とIT重説に係る意向確認は、それぞれ分けて行う必要がありますか。
分けて行うほか、電磁的方法による提供の対象及びIT重説の対象となる取引並びに電磁的方法による提供の対象となる書面の種類が「承諾」の際に明示的に特定されるのであれば、一度に書面の電磁的方法による提供に係る承諾の取得とIT重説の実施に係る意向確認を行うことは可能です。
【複数取引を同一宅建業者に依頼する際の承諾】
一人の依頼者が複数の不動産取引を同一の宅建業者に依頼する場合、電磁的方法による承諾を一度にまとめて行ってもよいでしょうか。
電磁的方法による提供の対象となる取引及び書面の種類が「承諾」の際に明示的に特定されるのであれば、複数の取引について一度に承諾を得ることは可能です。
「重要事項説明書等の電磁的方法による提供の承諾」及び「IT重説に係る意向の確認」のための法定様式やひな型はありますか。
また、承諾や意向確認の際に相手方の署名や押印は必要ですか。
法定様式やひな型はありません。
また、署名、押印を必要とする定めもありません。
なお、重要事項説明書等の電磁的方法による承諾を得る際には、説明の相手方等に必ず伝えなければならない情報を含め、例えば以下のような項目を立てることが考えられますので、承諾を得るための様式を作成される場合の参考としてください。
〔 重要事項説明書等の電磁的方法による提供 〕
・承諾した年月日
・承諾を取得するための様式の作成者名(宅建業者名)
・重要事項説明書等の電磁的方法による提供を行う対象となる取引と書面が特定できる記載
・重要事項説明書等の電子書面を提供する方法
・重要事項説明書等の電子書面のファイル形式
・承諾した場合でも、改めて拒否する旨を申出ることができる旨とその方法
・機器や回線トラブル等が生じた場合に重要事項説明書等の電磁的方法による提供を中止し、書面(紙)による交付に代える場合がある旨
説明の相手方等からの電磁的方法による提供を受けることについて「承諾」を得る場合、電子メールや LINEなどのSNSを利用することは可能ですか。
個別に判断が必要です。
説明の相手方等から電磁的方法による提供を受けることについて「承諾」を得る場合に用いることのできる手段は、次のとおりです。
① 書面(紙)
② 相手方が電気通信回線を通じて承諾をする旨を送信し宅建業者の使用する機器に記録する方法(例:電子メール)
③ 宅建業者の機器におけるファイルに記録された電磁的方法の種類及び内容を電気通信回線を通じて閲覧した相手方が当該ファイルに承諾する旨を記録する方法
(例:Web 上での承諾の取得)
※宅建業者が書面の交付時に利用することができるダウンロード方式とは異なる。
④ 相手方が承諾する旨を記録した磁気ディスク等を交付する方法
LINEなどのSNSは、その機能に応じて個別に判断する必要がありますが、電子メールと同様に電気通信回路を通じてメッセージで「承諾をする旨」を送信するのであれば②、LINEなどのSNSに設けられた承諾フォーム上で「承諾」を得る場合であれば③に当てはまり得るものと考えます。

 

なお、いずれの場合も「相手方が記載事項を出力し書面を作成できるものであること。」(単にスクリーンショットを印刷できるものではなく、書面に出力可能なファイル形式であること)が必要となります。

相手方が日本国外にいる場合でも、重要事項説明書等の電磁的方法による提供やIT重説を行うことは可能ですか。
可能です。
実施場所に制約はありません。
共同媒介や契約の相手方が複数いる場合でも重要事項説明書等の電磁的方法による提供を行うことは可能ですか。
可能です。
なお、一つの宅地建物取引に複数の宅建業者が関与する、いわゆる共同媒介や契約の相手方が複数いる場合についても、重要事項説明書等の提供先、重要事項説明の相手方や説明を行わなければならない宅建士は、書面(紙)による場合の考え方と変わりありません。
特に、35 条書面及び 37 条書面を電磁的方法により提供する場合には、書面(紙)により交付する場合と同様、共同媒介に関与する全ての宅建業者の宅建士の記名を行うことを失念しないよう留意してください。
【サポートが終了しているOSの使用】
顧客のIT環境を確認したところ、既にサポートが切れているOSを使用しており、セキュリティ上の不安がある状態でしたが、このような場合にもソフトウェア等の動作に問題がなければ、重要事項説明書等の電磁的方法による提供やIT重説を実施可能でしょうか。
セキュリティレベルについては、OSだけではなく回線のセキュリティ等の全てを勘案して判断すべきものです。
宅建業者においてセキュリティに懸念が残る場合には、重要事項説明書等の電磁的方法による提供やIT重説を実施しないことが望ましいと考えられます。

重要事項説明書等の電磁的方法による提供関係(FAQ)

【電磁的方法の種類及び内容】
重要事項説明書等の電磁的方法による提供に係る承諾を得るに当たり、使用する電磁的方法の種類及び内容を一つに限定せずに、使用する予定がある複数の電磁的方法の種類及び内容を選択肢として全て列記した上で、この中のいずれかの方法で行う旨を示して、承諾を取得することは認められますか。
列記した全ての方法について相手方に説明のうえ承諾を得られるのであれば認められると考えられます。
ただし、トラブル防止の観点からは、「宅建業者が実際に用いる予定の電磁的方法の種類及び内容」を特定した上で、相手方等の承諾を得ることが望ましいと考えられます。
34 条の2書面、35 条書面、37 条書面を電磁的方法により提供する場合、どのタイミングで提供を行うのが適切ですか。
電磁的方法による提供を行う対象の書面によって、タイミングは異なります。
35 条 書面(重要事項説明書)については、重要事項説明を実施する前に説明の相手方に提供を行う必要があります。
34 条の2 書面(媒介契約書)、37 条書面(契約書)については、契約の締結・成立後に遅滞なく提供を行う必要があります(※)。
※ 34 条の2書面、37 条書面は、「契約を締結したとき」「契約が成立したとき」に遅滞なく交付すべき書面であるため、契約締結・成立の前にこれらの書面を交付(電磁的方法による提供を含む。)することは、宅建業法上認められません。
【説明の相手方に端末の貸与】
宅建業者が説明の相手方に端末を貸与して 35 条書面(重要事項説明書)の説明を行うことは可能ですか。
可能です。
ただし、
①説明の開始前に電磁的方法による提供を済ませていること(相手方の使用に係る電子計算機等が行われていることが必要)
②説明の際にデバイスに表示している書面の内容が相手方に提供したものと同一であること、
が必要です。
一度、電磁的方法による提供に承諾した説明の相手方等が口頭で拒否を申出た場合、当該拒否の申出を別途書面や電子メール等で受領することなく、書面(紙)での重要事項説明等に切り替えることができますか。
任意で切り替えることができます。
ただし、取引の安全を図るため、書面に出力可能なファイル形式で「拒否の申出」を受領した上で、書面での重要事項説明等に切り替えることが望ましいと考えられます。
また、このような場合を想定し、トラブル防止の観点から、当初、電磁的方法による提供の「承諾」を得る際に、書面への切り替えを行う可能性があることやその旨を記載することも考えられます。
重要事項説明書等の電磁的提供に係る宅建士の明示において必要となる「当該宅建士の記名」とは、電子署名が必要ですか。
宅建士の氏名が判別できるのであれば、単に印字されているだけでも構いません。
重要事項説明書に記載すべき内容は、外部URLのみを記載することで「宅建業者による記載すべき事項」を提供したことになりますか。
外部URLの記載のみでは、「宅建業者による記載すべき事項」を提供したことにならないと考えられます。
【重要事項説明書に添付すべき書類】
重要事項説明書を電磁的方法により提供する場合、すべての添付書類等について電磁的方法による提供に係る要件を満たす必要がありますか。
重要事項説明書に記載すべき内容を「別添参照」などの記載で添付書類に委ねている場合には、当該添付書類も重要事項説明書の一部と考えられるため、電磁的方法による提供に係る要件を満たす必要があります。
一方で、一般的な規制の内容の説明等、重要事項説明書に記載すべき内容以外を示す資料については、この限りでないものと考えられます。
「電子書面が改変されていないかどうかを確認することができる措置」の例として、電子署名とタイムスタンプが挙げられていますが、その他の措置(電子署名とタイムスタンプ以外の措置)はどのようなものが認められますか。
令和4年(2022年)4月の時点で国土交通省が確認できている「電子書面が改変されていないかどうかを確認することができる措置」は、電子署名とタイムスタンプです。
電子署名とタイムスタンプ以外の措置については、今後の技術進歩を踏まえて、新たな対応方策が生じた場合には、国土交通省で確認を行い、確認ができた措置については追加的にお示ししたいと考えています。
電子書面を提供した旨の「通知方法」は、提供方法と異なる方法でなければならないのでしょうか。
通知方法に指定はなく、マニュアル内に例示した方法以外でも構いません。
ただし、提供方法と異なる通知方法の方が通知の精度が上がると考えられることから、マニュアルにはこのような方法を示しています。
重要事項説明に先立ち送付した書面(35条書面)に変更が生じた場合、再度電子書面を作成の上、説明をやり直す必要があるのでしょうか。
説明の全てをやり直す必要はありません。
ただし、修正点を明示し、新たに電子書面を作成の上、電子署名やタイムスタンプ等により「改変されていないかどうかを確認することができる措置」を施して提供する必要があります。
IT重説の実施に先立ち送付する書類等を電磁的方法により提供する場合に、ダウンロード形式であれば「ダウンロード可能期限」を設けてもよいでしょうか。
ダウンロード可能期限を設定することは可能です。
ただし、電子書面を提供した旨を通知した後、電子書面が説明の相手方等に到達していることの確認について、説明の相手方等へ依頼する必要があります。
なお、仮に期限までにダウンロードがなされなかった場合には、他の手段で電子書面が相手方に到達しない限り、電子書面を提供したことにはなりませんので注意が必要です。
【ブラウザ上での同意】
説明の相手方等がブラウザ上で「承諾する」をクリックすることで承諾を得る場合は、承諾された旨が宅建業者の使用するPCのブラウザ上に表示されれば、書面に出力可能だと判断してもよいでしょうか。
ブラウザ上に表示された「承諾する」旨が、宅建業者のPCにおける書面に出力可能なファイル形式でダウンロードできる場合には、「書面に出力可能」だと考えられます。

ITを活用した重要事項説明関係(FAQ)

不動産取引を行うに当たり、地方自治体の定める条例により説明が義務付けられている事項がありますが、これについてもIT重説で実施していいのでしょうか。
物件が所在する地方自治体の定める条例等により、宅建業法で定める重要事項説明に加えて「説明」が義務づけられている事項がある場合があります。
その際は、その説明にITを活用するかについては、条例を定める地方自治体の方針に従う必要がありますので、事前に地方自治体に確認することが望ましいと考えられます。
【重要事項説明書の事前送付】
「重要事項説明の実施に先立ち、宅建士により記名された重要事項説明書及び添付書類を、説明の相手方に送付している必要がある」とのことですが、IT重説の場合、送付時点で改変されていないかどうかを確認することができる措置が必要ですか。
IT重説を行う前までに必要となります。
重要事項説明書の案を送付するなど、最終的にIT重説時に交付して説明する重要事項説明書ではない場合には、改変されていないかどうかを確認することができる措置は必要ありません。
IT重説の実施状況を録画・録音する場合、個人情報保護法との関係で対応すべきことはありますか。
IT重説の実施状況を録画・録音する場合、説明の相手方の顔等の情報を取得するため、個人情報の取得に該当します。
そのため、宅建業者は、個人情報の取得に関して、あらかじめその利用目的を公表するか、速やかに、その利用目的を本人に通知又は公表することが必要です(個人情報の保護に関する法律(平成 15 年法律第 57 号)第 21 条第1項)。
また、取得した録画・録音記録に関しては、個人情報として、漏えい、滅失又は毀損の防止その他の必要かつ適切な措置を講じなければなりません。
特に、個人情報の漏えい、滅失等が生じたときは、個人情報保護委員会規則で定めるところにより、当該事態が生じた旨を個人情報保護委員会に報告しなければならないことに留意が必要です(個人情報の保護に関する法律第 26 条第1項)。
なお、録画・録音に関しては、抵抗を感じる方をいらっしゃいます。
そのため、IT重説の実施状況を録画・録音する場合には、トラブル防止の観点から、「相手方から明示的な同意を得る」ことが望ましいと考えられます。
IT重説を実施し、録画・録音をしている際に、重要事項説明の途中で関係者の機微情報に触れる必要が生じた場合、IT重説を中止することが可能ですか。
可能です。
説明の相手方が、宅建士の同意がないままIT重説の実施状況を録画・録音し始め、録画・録音の中止を求めても停止しない場合には、どのように対応する必要がありますか。
宅建士の判断により、IT重説を中止することができます。
【録画・録音記録の保存期間】
IT重説に際して取得した録画・録音記録は、どのくらいの期間、管理する必要がありますか。
IT重説の実施状況の録画・録音記録は、宅建業者の判断で取得するものであることから、原則として宅建業者の判断で、保存期間を定めることになります。
ただし、録画・録音記録は、説明の相手方の個人情報に該当するので、利用目的の範囲を超えて管理することは妥当ではありませんので、取得に際しての利用目的に違背しないかを確認することが必要です。
例えば、IT重説を実施した後に、結果として契約に至らなかった場合には、事後の賃貸取引に係るトラブルが発生する可能性が低いため、特段の必要性がない限り、速やかに廃棄等を行うことが望ましいと考えます。
また、逆にトラブル防止のために取得することについて、説明の相手方の同意を得ている場合には、その取引にしたがって必要な期間管理することが必要となります。
宅建業者が一定期間経過後に、取得した録画・録音記録を廃棄しようとする場合、説明の相手方において不測の損害等が生じないよう留意することが必要です。
【録画・録音の同意を取得した者以外の同席】
IT重説を開始したところ、録画・録音の同意を取得した説明の相手方以外の者が一緒に参加していました。個人情報保護との関係でどのように対応すればよいでしょうか。
個人情報保護に関する同意は、説明の相手方からのみ取得しているので、その効力はその他の方には及びません。
そのため、一旦IT重説を中止し、他の参加者からも同意の取得等を行うか、または、同席されている方の離席を促す必要があります。

資料など(不動産書面の電子化)

国土交通省は、「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル」を公表しています。 
宅地建物取引業者等が、重要事項説明書等の電磁的方法による提供やIT重説を実施するにあたり、遵守すべき事項や留意すべき事項をまとめたマニュアルです。

〇解釈運用の指針
・宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方【溶け込み】【新旧】(令和4年5月18日以降)
・宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方別紙2(重要事項説明書)【溶け込み】【新旧

 

〇プレスリリース
報道発表資料

 

宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(平成13年国総動第3号)新旧対照条文

 

 

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